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滉斗が居なくなって···けど大学生になった俺は1人暮らしを始めた。
初めてのことばかりで戸惑うことも多かったけど友達も出来て料理なんかも少し頑張ったりしながらなんと家か必死に毎日を過ごして···気付けばあっという間に4年生になっていた。
「元貴〜!今年こそクリスマスパーティー参加してよ」
「そうだよ、友達たくさん誘ってみんなで盛り上がろうよ」
1年のとき、大学内で教室がどこか分からずどうしたらいいか困っていた俺に話かけてきてくれた綾華と、軽音サークルに入ってくれないかって勧誘されて知り合った高野。
今では一緒の講義を受けたり食事したりする大事な友達だ。
「クリスマスは俺予定あるの、じゃあね、また明日」
「去年も一昨年もおんなじこと言ってたよね、なんでよ〜」
「まぁまぁ、元貴は永遠にクリスマスは予約が入ってるらしいからさ」
綾華が不満そうな声と宥める高野の声を背中に家に帰る。
「滉斗、ただいま。クリスマスは2人で過ごすのにね、綾華は毎年誘ってくれるの」
俺にとってクリスマスは滉斗と付き合った、そしてサヨナラした特別な日だから···この先もずっと滉斗の為に開けておくと決めていた。
そして今年も。
「ケーキとチキンとコーラと···滉斗がいたらそれでいいよね」
大学の授業が終わってアルバイトをして、そしてコンビニで買い物をして帰る、しっかりと滉斗とお揃いのマフラーとプレゼントした手袋を嵌めて。
「じゃあ···メリークリスマス!かんぱーい···。あれから4年なんて早いよね、来年のクリスマスは俺きっと仕事から帰ってきてパーティーしてるよ···」
写真を見ながら滉斗に話しかける。
あれから何年経っても俺の中で色褪せることのないたくさんの思い出をひとり喋りながらケーキを食べた。
正直、1年目のクリスマスを迎えるまではどんな時も辛かった思い出しかない。けど2年目、3年目と···少しずつ笑えることも綾華や高野のおかげもあって増えてきた気がする。
「最初のクリスマス、ホールケーキ買っちゃって···あれは今考えれば可笑しいけど」
1人で食べきれなくて、けど捨てるわけにもいかなくて朝ごはんもケーキ、みたいな状況で「なんで俺1人なの、滉斗が居たら一緒に食べれたのに」って泣きながら食べたのを思い出す。
街中を幸せそうに歩く人たちが羨ましくて泣きながら帰った時もあった。
滉斗の服を抱きしめて眠ったけどだんだんと消えていく懐かしい匂いが余計悲しくて朝起きてまた泣いた。
辛くて心が折れそうになった時はあの手紙を読み返して滉斗が好きと言ってくれた笑顔でいようって自分に言い聞かせて、毎日少し起きた楽しかったことや嬉しかった事を報告するようにした。
『高野と綾華っていう友達が花火大会に誘ってくれたよ』
『テストでいい点数取れたよ···課題も順調だし、俺ちゃんと頑張ってるから』
『卵焼きとかカレーとか上手に作れるようになったよ···滉斗にも食べさせてあげたかった』
そんな風に伝えることで少しでも滉斗はそばにいてくれてるって感じたかったし、少しづつ泣くことも減っていった。
「クリスマスだけはやっぱり少し切なくなるけど···俺笑ってるから。滉斗安心していいよ、来年も一緒にいようね」
そしてクリスマスが終わった週末には地元に帰って滉斗のお墓参りをする。来年も再来年も俺はこんな風に滉斗を愛して過ごしていくつもりだった。
そんな風に大学を卒業して内定を貰った会社で社会人として最初は怒られながらも優しい面倒見のいい先輩に教わりながら5年···滉斗が亡くなって10年目が経とうとするクリスマスを間近に控えた頃、会社の飲み会に参加した俺はいつもより少し酔ってしまっていた。
「元貴、大丈夫?」
「はい···すみません、そんなに飲みすぎたつもりはないんですけど···」
「体調優れなかったのかな、ごめんね、僕が止めてあげたら良かった」
酔ってしまってぐったりする俺を優しく介抱してくれる藤澤さんは実は高野が所属していたサークルの先輩で何回か見に行ったイベントやステージで楽しそうにキーボードを弾いていた人だった。
その時はピンクだったり青だったりとにかく派手な髪なのに可愛い表情をして笑う優しい先輩、という印象で、 だからほぼ真っ黒の髪の毛にしてスーツを着ている姿を見てもピンとこなくて、歓迎会の時に大森くんだよね?高野のお友達の、と声を掛けられて初めて気づいたくらいだった。
そんな藤澤さんはプライベートでも遊びに誘ってくれるようなやっぱり優しい先輩だった。
「ほら、家着いたから···鍵ある?」
「これ···すみません」
1人で大丈夫、という俺に心配だからと先輩が家まで送ってくれて鍵まで開けてくれて水なんか用意してくれて俺はぐったりとソファに座り込んでいた。
「ちょっと、良くなりました···」
「けどまだ顔色悪いよ、早く今日は寝ちゃいな。明日休みだし」
「風呂入りたいです···」
今日1日仕事して、居酒屋の匂いついていてどうもこのままベッドに入るのは着替えても嫌だ。
「せめてあと少し休んでからにしなよ、倒れたら危ないから」
「はーい···」
ソファに倒れてぐったりする俺の頭を先輩がそっと撫でた。久しぶりにそんな風に撫でられて、なんだか少し滉斗のことを思い出した。
「お風呂、入ろうかな···藤澤さん、ありがとうございました···遅くまで付き合わせて。タクシー代払うんで、もうタクシーで帰ってくださいね···」
「そんなのはいいけど、それよりお風呂上がるまでいさせて。帰ったところで倒れてないか不安だし」
2歳しか離れてないのになんだかすごく心配してくれるなぁ、と思いながら先輩は決めたら頑固なところがあるので素直にお風呂に入る。
シャワーを浴びて出ようとしたとき、視界が真っ白になる。
あ、これやばいかも···。
ガタガタと大きな音を立てて床に崩れるように座り込んでしまう。
「元貴?!大丈夫?入るよ!」
シャワーに濡れながら藤澤先輩が俺を起こしてくれて、タオルで俺を包んで抱き上げてリビングに連れて行ってくれる。
俺の方が背は小さいけど重たくないのかな、行動が王子様みたいだな、なんてぼんやりしているとさっさとトレーナーに着替えさせられ、恥ずかしい事にパンツとズボンまでしっかりと着せられて毛布に包まれていた。
「頭とか打ってない?気持ち悪くない?」
「くらっとして目の前真っ白になって···すみません、藤澤さん濡れてる···」
シャワーに濡れながら俺を助けてくれたおかげでワイシャツもズボンも濡れている。
「僕のことはいいから。元貴は大丈夫なの?」
「だいじょうぶ、です」
なんでだろう、今日はやたらと滉斗のことを思い出す。
藤澤先輩の瞳が、その心配してくれる表情が滉斗が俺を見る瞳となんだか似ていて···。
「ほら、ドライヤー借りるよ、乾かしてあげるからすぐ寝ちゃいなさい」
ドライヤーされて、ほわほわと暖かくなると本当にうとうと眠気が凄い。
また俺は軽々抱き上げられてそっとベッドに下ろされて布団をかけてもらう。
「そこ···服あるんで、あと新品の下着もここに···良かったらお風呂入って泊まって行ってください···毛布もあるから···藤澤さんが良かったらですけど···」
「ありがとう、まだ心配だし、そうさせてもらおうかな···借りるね、服。ちゃんと元貴は寝てるんだよ」
頭をポンポンされる。
あぁ、滉斗にされてるみたいだ。
心も身体もあったかい···俺は幸せな気持ちで眠りについた。
コメント
3件
💛ちゃんが🥹✨ 2人がどうやって、近づいていくのか楽しみです❣️ クリスマスのシーン、切なくて🎄😭
続編の公開楽しみにしておりました!ありがとうございます💗 切なくて苦しいはずなのにどこか温かくて…読んでいて胸がきゅっとなりました。mtkがこの先も幸せでありますように。 また続きが更新されるのを楽しみにしています‼️
恋人を失った傷跡って、何年経ってもなかなか癒えないものだから、切ないなぁ⋯⋯。