「いらっしゃいませー。」
と、流暢な日本語で《命辛辛》の店主
ジャアムおじさんは 言った。
彼は 《友好型》の能力者である。能力
彼は善意で、どろり、痛見、表裏一体に、
能力《ハングリーニコル》を使った。
ジャアムおじさんの能力
《ハングリーニコル》を端的に説明すると
店に入った者に強制的に想像を絶する空腹感を与える能力である。
グーキュルルルル、グーーーーーーキュルルルル
どろり達の腹が爆音で鳴り出し、どろり達
はとてつもない空腹感に襲われた。
(なんだ!!!!?あの外国人の能力か!!!!????
空腹で脳がとけてしまいそうだぁぁ!!!!!)
どろりは腹をかかえ、空腹でうずくまりながら自らに能力をかけたジャアムおじさんを
どろりの能力《メルト》でぶっ溶かして
この世から抹消しようかと考えた。
しかしジャアムおじさんは仏のような
顔でニコニコしていた。
妖怪沢どろりには致命的な弱点がある。
それはどろりが悪人と判断した者にしか
《メルト》を使えないことだ。
これはどろりが能力《メルト》をかなしい
ことを消すためだけに使っているからである。
そのためどろりは自分がいい人だと判断した
人間に《メルト》を使えないのであった。
ジャアムおじさんはぐう聖である。
この飢餓地獄はジャアムおじさんの
善意によって舗装されていた。
故にどろり達はこれからしばらくの間、
想像を絶する空腹を味わうことになる。
「えー☆急にめっちゃおなかへったんだけどー!!?ボク今なら担々麺1000杯はいけるよー!!!」
ポジティブバカの表裏一体ちゃんは爆音で
腹を鳴らし涎をふきふきしながらそう言った。
「この痛み……!!!空腹感…….!!!!想像以上だぁ!!!!!!!新っ鮮な痛みをありがとォォ!!!!」
シンプルにバカな痛見は修羅のように
目をガンギマラせ涎を垂れ流しながら
そう言った。
「喜んでいただけて何よりです。」
ジャアムおじさんはそう言ってにこりと
笑った。
どろり達はジャアムおじさんに案内され
店内のカウンター席に座った。
すると小さな白いドラゴンのようなニコニコした生き物が注文を取りに来た。
(こいつも能力者か……?)
とてつもない空腹に耐えながらどろりは
不審がった。
謎のドラゴンは三人にスッ、とメニュー
表を渡した。
メニュー表には一文字、《激辛担々麺》
とだけ書かれていた。
どろり達はめちゃくちゃおなかが空いていた。どろり達はとにかくなんでもいいから早くメシが食いたかった。
「「「すいませーん担々麺一杯くださーい。」」」
とどろりは言った。
ドラゴンはニコニコしながら
メニューを復唱した。
「《激辛担々麺》。」
その時、《友好型》であるドラゴンが
善意で能力を発動した。
どろり達のおなかの辺りに《激辛担々麺》
と文字が浮かび上がった。
ちっちゃな白いドラゴンの能力は
「《好きな惣菜発表ドラゴン》。」
その恐るべき能力は、この能力を使用された
ものは腹に刻まれた料理を完食するまで、
決して店内から逃げられないという地獄のような能力であった。
ドラゴンはこの能力をどろり達に
おいしいものをおなかいっぱいたべてほしい
というド善意でかけた。
どろり達は、ジャアムおじさんの
超絶激辛担々麺を完食するまで、決して店内
から逃げられないのだ。
能力とはそういうものである。
「おまたせしましたー。《激辛担々麺》
一丁ーー。」
アルバイトの女の子はどろり達に 《激辛担々麺》を渡した。
彼女は理科の実験とかで使う防護ゴーグルとマスクをつけていた。
「熱っつ!!!!!!!????????」
どろりは思わず目をこすった。
《激辛担々麺》の凶悪なカプサイシンが
目に入ったからだ。
「あ、すいませーんこちらをいただくときは
この防護ゴーグルをつけてくださーい。
めちゃくちゃ危険ですのでー。」
アルバイトの女の子はさらりとそう言い どろり達に防護ゴーグルを渡した。
「やっばー☆かっらそーーーー!!!!!!」
単細胞の表裏一体はパシャパシャ激辛担々麺
の写真をとりSNSにあげた。
「勝負だどろり!!!!!!!!ルールは単純!!!!!!!
先にこの激辛担々麺を完食した方の勝ち!!!!
負けた方はアイスおごりィ!!!!!!」
シンプルバカの痛見はそう言ってどろりを
指差した。
勘の良いどろりは気づいていた。
(詰んだ……..殺される……..。)
そう、どろり達はジャアムおじさん達の
善意によってBioTOPE史上最大のピンチに
立たされていた。
いざ、実食である。
どろりは目の前の激辛担々麺を見た。
それは、担々麺と呼ぶにはあまりにも
凶悪な赤い香辛料の塊であった。
(これ……本当に食べていいやつなのか…..?
なんかもう匂い嗅いだだけで鼻がヒリヒリ
するんだけれど。)
ジャアムおじさんはプロの料理人である。
プロの料理が、激辛好きの客達をうならせるために作った純然たる激辛担々麺。
それを素人のどろりが食えば当然こうなる
「あっが…..!?ああああ!!!!水!!!!水水水!!!!!」
どろりはそう言いながら椅子から転げ落ち
暴れまわった。
どろりの口内をとてつもない量の香辛料が
襲いかかり舌を、喉を、腹を、ちょっとむせちゃったので肺を、焼くような痛みが襲いかかった。
(クソッ、クソッ…….痛見のせいだ!!!!!!
やつの能力のせいでこんな …….あああ
痛すぎて舌がとけてしまいそうだぁぁぁ!!!!)
苦しみもがくどろりを見て大爆笑しながら
表裏一体は言った。
「あーっはっはっは!!!!!!どろり大げさすぎー☆何ィリアクション芸人でも目指してんのォ
?あー、おもろー。SNSにあげてもいい?
ねぇあげてもいい?どーろーりーぃ?」
表裏一体は天性の煽りカスであった。
彼女がここまでどろりを煽れるのは、
まだ彼女がジャアムおじさんの 《激辛担々麺》を食べてないからである。
一通り激辛担々麺の写真を録り終わった 表裏一体は、元気に手をあわせて言った。
「いただきまーす☆はむっ、ゲッホォゲッホ
……!!!!」
そうやって表裏一体も椅子から転げ落ちあまりの辛さにのたうち回った。
これでもかってくらいドロドロの濃厚スープの中にはえげつない量の激辛調味料がぶちこまれており、 表裏一体はその痛みのあまり、卓上調味料を全部ぶちまけてしまった。
「パパー!!!!ママーーー!!!!!」
あまりに辛すぎて表裏一体は泣き叫んだ。
涙を流すのは可愛くない。
そんなポリシーを 持つ表裏一体ですら泣きながらのたうち回るほどの激痛。
彼女はすでに地獄にいた。
「無理、もう無理帰る!!!!帰ってアイス食べる!!!!!」
表裏一体は泣き叫びながらお金を置いて逃げようとした。が、ダメ。
《好きな惣菜発表ドラゴン》の能力によって
彼女は逃げられなかった。
(え、え、嘘でしょボクこんなとこで
死ぬの?)
楽観的な表裏一体もようやくこの逃れられない地獄に気がついた頃。
「ヒィィィアアア!!!!!!うまかったぜ大将!!!!
新ッ鮮な痛みをありがとォォォォ!!!!!」
なんとこの地獄のような担々麺を
口裏痛見はおよそ1分半で完食した。
「ありがとうございます。」
ジャアムおじさんは菩薩のような笑みを
浮かべた。
痛見がこの地獄の担々麺を完食できたのには
訳がある。
それは痛見の能力《とてもいたいいたがりたい》には痛みを感じた時に肉体を回復すると
いう能力が備わっていたからだ。
故に痛見は例えこの担々麺に毒が入っていようが放射性物質がはいっていようがマキビシが入っていようが余裕でこの担々麺を完食できるという寸法なのだ。
「ゲホッゲホッ…..!!!ずるいぞ痛見ィィ……。
そのっ能力……マジで…..ずるいぞ…..!!!」
床を這いつくばりながらどろりは言った。
「ハッハーー!!!悔しかったらお前も能力つかえやどぉぉろぉぉりぃぃぃ!!!!!」
そう言って痛見は高笑いした。
【10分後】
(帰りたい…..おうちかえりたい……。)
防護ゴーグルに涙を溜めながらどろりは
死にものぐるいで担々麺を口に含んだ。
このころになると舌の感覚が麻痺し割りと
啜れた….が……。
(グギギィ….. !!!喉がァァァ….胃腸がァァァァ
…….痛みでとけてしまいそうだァァァ……!!!)
今度は胃腸に地獄のようなダメージが蓄積
される。
彼が一体何をしたというのだろうか?
たった50人あまりの悪い能力者たちを
この世から抹消しただけでここまでの地獄を
味わわなければならないのだろうか?
しかし、まだまだどろりの地獄は終わらない。
一方、表裏一体はグズグズと泣きながら
担々麺を無言で啜っていた。
おしゃべり大好き表裏一体ちゃんがグズグズと泣きながら黙って担々麺を啜るしかないというこの事実。
この事実がこの激辛担々麺の
尋常じゃない辛さを物語っていた。
(ごめんだざい…..ごめんだざい…..ボクが
わるがっだよぉ……おうち帰らぜて、
おうち帰らぜて……。)
そこでかしこい表裏一体ちゃん、閃いた。
(そうだ!!!ここの能力者たちを倒せばいいじゃん!!ボク天才!!!)
そして表裏一体は唇に人差し指をあてて
能力《裏表ラバーズ》を 使おうとした。
………が、ダメ。
(なんでぇ…..なんで能力つかえないんだよォ
…….。)
表裏一体が能力を使えなかった理由は二つ。
一つは彼女の唇がパンッパンに腫れていたこと。唇に人差し指をあてることが発動条件の
《裏表ラバーズ》にとって、これは致命的であった。
そして何より、表裏一体はこの激辛担々麺に
よって心をへし折られていた。
《能力者の強さは心の強さに依存する。》
これは、この世界の住人なら小学生でも
知ってる常識である。
表裏一体の心は、すでに折れていた。
この激辛担々麺によって煽りカスである
表裏一体の心は足で踏み潰したポッキーの
ようにグッシャグシャであった。
ざまあみろである。
一方痛見は完食し終えて暇だったので
最近はまっているソシャゲ《バカバカラ》
で暇潰しをしていた。
【二十分後】
どろりは、感覚的には死の縁をさまよっていた。
基本的に人間は激辛担々麺を食べただけでは死なない。
だがどろりは激痛と、飢餓と、決してこの
地獄から逃げだせないという絶望感で、
精神的に死にかかっていた。
どろりの意識は激しい痛みで朦朧としていた。
混濁とする意識の中どろりはカウンターの
角に頭をぶつけた。
「ッガッ………!!!!!」
どろりは気絶し走馬灯のような夢を見た。
おびただしい数の呪詛、呪詛、呪詛。
この世界に悪霊など(※悪夢ちゃん以外)
存在しない。
これは、どろりの心の奥底に眠る
罪悪感の発露であった。
呪詛の群れはどろりの足をつかんでどろりを
この奈落に引きずろうとしていた。
(あぁ……ボクは、死んだのか……。)
死んでいない。
どろりは気絶しただけである。
(痛い、胃の中が気持ち悪い。
…….このまま沈んでしまおうか。)
そうやってどろりが目を瞑った、その時であった。
ガブッ!!!!っとどろりの肩を何者かが噛んだ。
「いった!!!!」
どろりが目を開けると、その相手は
どろりが能力によってこの世から存在を
消した継接我楽であった。
彼の横には、くすくすと笑う人柱人柱燐墓の姿があった。
「どう……して…….。」
どろりは言った。
どろりの能力《メルト》 によって消された者はこの世から消されて どろり以外の世界中の全ての人から忘れ 去られる。
故にどろりはどうしてお前らがここにいるんだと問いたかったのだろう。
彼らは悪霊などではない。
彼らは気絶したどろりの夢が生み出した随分と都合の良い妄想であった。
「お前マジでふざけんなよどろりぃぃぃ。
何担々麺ごときで死にかけてんだごらぁぁぁあ。」
牙を突き立て、どろりをぎらりとにらみながら、我楽が言った。
「君はまだ死んじゃだめだよ。私たちの分もくるしめよカス。」
くすくすと笑いながら燐墓ちゃんが言った。
我楽はどろりの肩を噛むのを辞め、どろり
に激しく頭突きをした。
「いっで!!!!??」
夢の中の我楽は言った。
「これはお前が本来持っていた能力だ。
お前の能力の本質は《現実改編》、さっさと
戻って担々麺食って苦しんでしねやカス。」
我楽はそう言ってペッと唾を吐いた。
「ヒントはおしまい、あなたは《メルト》の二つの能力をこの地獄から得た。勘違いしないでね、助けたわけじゃないわ。あなたは
苦しむの。私から我楽を奪ったあなたは
苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんでから……..こっちにおいで。」
我楽と燐墓は手を繋いでゆらりと消えた。
「……っはッ!!!!!!!!!!!!」
どろりは顔中に激辛担々麺のスープと麺を
つけながら目を覚ました。
「大丈夫どろりー?一時間ぐらい気絶してたよ?」
地獄のような担々麺をなんとか完食し終えた
表裏一体は唇をパンパンに腫らしながら
どろりに言った。
痛見はどろりを気にせずソシャゲ
《バカバカラ》の猛者達と真剣勝負をしていた。
「痛見、ちょっといいか。」
精神的な死の縁の中でどろりは二つの能力に
目覚めた。
「うおおおお!!!!俺のタアアアン!!!!」
生粋のバカバカラーである痛見はどろりの
話を聞いてなかった。
のでどろりは痛見に頭突きをした。
痛見にキレたのではない。
「《メルト》|劣化版ODDS&ENDS 。」
どろりは新たな技劣化版ODDS&ENDS を
使った。
その能力は、頭突きをした相手の能力を、
10秒だけコピーできるという。
我楽の能力の劣化版のような能力であった。
どろりは激辛担々麺を死にものぐるいでかっくらった。
どろりは激痛の中、本能的に痛見の
《とてもいたいいたがりたい》を使った。
痛見のように口内を完全回復することは
できなかったが痛みはだいぶ緩和した。
あとは時間との勝負である。
どろりは急いで激辛担々麺を
食らった
食らった
食らった
そして完食した。
「ッシャア!!!!!!」
普段叫んだりガッツポーズしたりしない
どろりもこの地獄から解放されガッツポーズした。
斯くしてどろりは現実改編の能力《メルト》の 新たな技、《ODDS&ENDS 》を精神的
死の縁から獲得した。
「ごちそうさまでしたー☆」
切り替えの早い表裏一体は唇をパンパンに
しながらジャアムおじさんに担々麺代980円を払った。
「どういたしまして、こちらサービスの
激甘ジャムあんパンです。」
「うひょひょひょひょーーー!!!!」
表裏一体はこの地獄から解放されて
だいぶテンションがおかしかった。
彼女の唇はパンパンに腫れていた。
しばらく《裏表ラバーズ》は使えないだろう。
「ッシャア!!!!大将!!!!次は能力なしで
挑戦しにくるぜぇ!!!!!」
そう言って痛見は大将に980円を払った。
「次はさらに辛さに磨きをかけてお待ちしております。」
そう言ってジャアムおじさんは痛見に
激甘ジャムあんぱんを渡した。
「わりぃな大将、俺甘いもん食わねぇんだよ。恋原….だっけ?やる。」
「いいやつじゃーん!!」
そう言って痛見から激甘ジャムあんパンを
もらった表裏一体は禁断のあんパン2個 同時食いを披露した。
「あざした。」
そう言ってどろりは980円を払い あんパンを加えながら痛見達と離れて 街へと向かった。
死の縁で得たインスピレーションを 早く試したかったのだ。
どろりは人通りの多い商店街にいた。
どろりは自らの顔に手を当てていった。
「《メルト》劣化版、《ひとりんぼエンヴィー》」
するとどろりは一瞬だけ消えた。
そして戻ってきた。
どろりを二度見した通行人の反応を見て
どろりはこの能力の効果を確信した。
(ほんの一瞬だけ自分の存在をこの世から
消す能力…..!!!劣化版ひとりんぼエンヴィー
……!!これは…..使える…….!!!)
斯くして精神的死の縁から這い上がり
二つ能力に目覚めたどろり。
彼はらしくもなく人通りの多い商店街で
高笑いした。
(最後まで読んでくださりありがとうございます。)
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