テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
辺りは人型の魂と熱気が充満し、まるで地獄のバーゲンセールだ。
人型の魂は背格好は皆同じだった。
恐ろしい苦しみに対しても。
苦痛に顔を歪めるものも。
悲鳴を上げるものも。
誰一人としていない。
「火端さん。あっちへ!」
「あ、おう!」
俺は音星の指差した方向へと走ろうとした。
案の定。
それは、針山に取りついた。
地獄の鬼用のトロッコだった。
「あそこに隠れましょう!」
「ま、待て! あれはトロッコだぞ! 走り出したらどうするんだ! 下は針の山だ!」
そういえば、仏教では、殺生や盗みや邪淫、飲酒、妄言、邪見をした者が地獄へ落ちるっていわれているんだ。
俺の妹は、飲酒に盗みに殺生に……そして……死体遺棄まで?!
きっと、地獄の奥底にいるはずだ。
だけど、俺にはそれが冤罪なのはわかっているんだ!
必ず探し出してやるぞ!
・俺たちはトロッコの中へと急いで走っていった。
だが、箱の中に入ると同時に弾みでトロッコが動きだしてしまった……。
「きゃーーー!!」
「い、いわんこっちゃないーーー!!」
ガタンゴトンとトロッコが、針の山をスピードを上げながら。風を切り。走り出す。
まるで、ジェットコースターだ。
俺たちを乗せたトロッコは、グングンと線路を猛スピードで走り抜け、右へ左へ唸るように曲がっていく。
トロッコの車輪から火花が飛び散る。
「きゃーーー!」
「うわ! うわっ!」
針山の側面を突っ切ってから、今度は傾斜を落下するかのように走り。それから、トロッコが徐々に登頂部分へと一直線に登っていってしまった。
「あの。火端さん? なんだか私……とても嫌な気がしてきました……」
「ああ……」
トロッコの前に乗っている俺に、後ろにいる音星の震える声が聞こえてきた。その間に、トロッコは針山の登頂部へとたどり着いていた。
「ああ、俺もだ……なんだか……これから起きることがわかったような……」
俺も嫌な予感がする……。
予感が的中した!
トロッコはそのまま猛スピードで、針山から下方のぼっかりと開いた穴へと降りだした。
「うおおおーーー!!」
「キャーーー!!」
これは、本物の地獄のジェットコースターだ……。
俺は叫びながら途切れ途切れの意識でそう思った。
真っ暗な地面に開いた穴の中は、また洞窟だった。
猛スピードで、トロッコはそのまま洞窟を走って行く。
更にスピードを上げだしたトロッコ。両脇には、土の壁が真っ赤に燃え盛りっていて、その高熱によって、俺は汗を大量に掻いた。
後ろを振り向くと、音星も自分の汗をピンク色のハンカチで静かに拭っていた。
トロッコが真っ暗闇な洞窟の奥へと走っていく。しばらくして、明かりのある出口が見えてきた。向かい風が激しさを増した。洞窟の出口までトロッコが車輪から火花を飛ばしながら、猛進する。
:
俺はゾッとした。
明かりの正体は、無数の青白い人魂だったのだ。
人魂は出口の周囲を浮かんでいた。
キュー―ーー!
と、いきなりトロッコが急ブレーキをかけてきた。
「うっ、うお!!」
俺は激しく左右に揺れるトロッコから、振り落とされないようにと両手をついて、足に力を入れ踏ん張った。音星は無言で俺の背中にしがみついていた。
洞窟を抜けると、トロッコは無事に停止した。
「ふぅーー、どうやら止まってくれたようですね」
音星が安堵の息を吐いた。
俺は冷や汗ともども腕で拭うと、あたりを見回した。
「あ、あれ? ここは?」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!