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64 ◇逗留
私はご機嫌な蒼馬さんの前で、神戸ビーフを少ししゃぶしゃぶして口にいれる。
わぉ、神戸ビーフが舌に触れた途端、ふわりとほどけ、なんとも言えない
旨味が口内に広がる。
「柔らかくて、美味しい~」
「……上手いよね」
「たまりませんっ」
「ははっ」
刺身も天ぷらも、素材そのものが際立ち、とても美味しい。
どの小鉢も味つけが絶妙で、ひと口食べるごとに小さな感動が生まれる。
美味しすぎて、もう反則。
箸を進めるたびに『これはすごい』と心の中でため息が漏れ、とにかくどれを食べても
外れがなく、最後の一口まで幸せが続いた。
「満島さん、めちゃくちゃ幸せそうだね」
「こんな美味しいもの、いただけてすごく幸せです」
「そんなに感激してもらって、ご招待のし甲斐があったわ」
「ありがとうございます」
こんなふうにたくさんの豪華な食事を前にして、私たちふたりの時間は
和やかに過ぎていった。
逗留している部屋は2部屋あり、食事などに使える客室とベッドルームが
付いている。
実は、食事をはじめる前から、隣に控えている豪華なベッドルームのことが
気になってしようがなかった。
それでも、素晴らしいお料理に舌鼓を打っている間は良かった。
けれど、食事を終えるとまた気になってしようがなかった。
蒼馬さんの様子を探るも、いつもと変わらず落ち着いて見える。
わざわざ2部屋もある部屋をとってあるのだから、今夜何もないってことはないよね?
それとも蒼馬さんのことだから、ほんとに寝るだけとか?
普通ならカップルで温泉街のホテルに泊まるというのに、夜を何もなく過ごすなんて
ことは有り得ない話だけれど──。
いくら考えても彼の思惑が読めない。
そのあとは、ふたりして窓際から外の風景を眺めた。
『どうして、旅行に誘ってくれたんですか?』
何度も口に出掛かったけれど、私はやっぱり蒼馬さんに訊くことはできなかった。
結婚相談所に入会して、いいところまでいったのに選択肢を間違えた自分。
だからこれ以上、自分だけが何かを期待しているふうに思われて、笑い者になり
恥をさらすようなことはしたくなかった。
「そろそろ、湯に浸かる?」
「そうですね。いい時間になりましたから」
私たちは温泉に入るため、大浴場に向かった。
私は、大浴場なんてはじめてで、手足をたっぷりとひろげて大いに寛ぎ湯を
堪能した。
だんだん気持ちよくなっていき――――。
そのような中で、柔らかくてふにゃふにゃになった頭で考えた。
大人の関係になりそうな時と今までの関係通り、会話でもしながらただ
寝るだけなのかを……。
果たして――――。