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「春美さん、この後どうします? 」
ぼんやりしてしまっていた私は意識を戻す。
「あ、そうだね。コーヒーでも飲んで帰ろっか」
「ん、そうですね。春美さん眠たそうだし」
学生の頃なんて、夜はまだまだこれからで数日くらいなら寝なくたって平気だった。つまんないだろうなぁってわかってるのに、自分のペースを変えないの悪い気がしてきた。
「ね、どこか行きたいんだったら付き合うよ。明日休みだし……」
店を出て、温い風を顔に受けながら広睦くんに声をかけた。広睦くんは苦笑いして、手の甲を私の頬に当てた。
「酷いな、春美さん。俺がどうしたいか知ってるくせに」
「へ? 」
間抜けな声が出てしまう。
「こんな時間からどこへ行くんですか」
そ、っか。若い頃はオールなんて平気だったなって思い出したから付き合うよなんて言ったけど、こんな遅い時間にどうしようもない。
「コーヒー、飲みながら電車の時間までウロウロしましょうか」
広睦くんは、私をベンチに座らせるとセルフサービスのコーヒーショップへと消えて行った。ほう、と息を吐く。あの子の方が、ちゃんと考えてくれてる。
何をしても様になる。遠目に見ると等身が際立つ。女の子だけじゃなく、サラリーマンも二度見してて苦笑いする。
綺麗な、綺麗な男の子――。
ほんの一瞬だけ私のものになった、奇跡みたいな子。まるで、神様がくれたご褒美みたいな時間。風が前髪を揺らしてるのさえ何かの演出みたい。
私の目の前に立って「甘いのと、苦いの。どっちがいいですか? 」そう言って笑う。始終ぼーっと見とれていた私はとっさに右を指した。
「甘いの」
「珍しいね」
「あ、広睦くん自分が甘いののつもりで買ったんじゃないの? 」
「俺どっちでもいい」
私に差し出す前に、苦い方に口付けて、ね?と首をかしげて見せる。
なんか、ごめんなさいって謝りたくなる。この子の目の前にいるのが私でゴメンナサイという気持ちだ。
「なに、春美さん酔ってんな? 」
「酔ってないよ。そんな飲んでないし」
そう言った後に思い直した。
「……酔ってるのかも。何か妙にセンチメンタル。かっこいいなぁ――……広睦くんは」
感情のまま口にすると、広睦くんはハッと呆れるように笑った。
「なんだよ、それ。センチメンタルが俺かっこいいになるのかよ。そうですね、俺は顔がいい。だから声かけてくれたんだもんね」
出会いを指摘されてカッと顔が熱くなる。
「それだけじゃないよ。それだけじゃ」
「嘘つけ、喋ったこともなかっただろうが」
喋ったこともなかったね。……電車の中では。やっぱりベンチでのことはこの子の中では記憶にも残らない事だったんだ。
「あるよ。雰囲気とか、ほとんどの人がスマホ触ってるのに、触らずに窓の外見てるとことか」
「ほぼ見た目な、それ。まぁ外見も大事な判断材料だわな。俺も春美さんが綺麗なお姉さんじゃなかったらスルーだったかもね。……今は」
「今は? 」
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瑠璃🍫✨💭ྀི
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「今は。どうなんですか、俺」
「かっこいいよ。近くで見ても、動いてても。こうやって見上げても」
「見た目かよ! 」
「あははは。ちょっと今のつっこみの瞬発力ったら」
「んだよ」
少し拗ねたような横顔も綺麗で、これは言わない方がいいな。
「今は、そうだね。ならず者。それから口が達者。それと、意外。つきあったら案外癖もないし、嫌みを言わないんだーっと思って」
「あー、初対面で春美さんのこと年上だってわかってんのにいきなりため口きいたことまだ言ってんの。嫌みは封印してますよ。だって、とりあえずは俺の希望聞いてもらえたから一旦は満足してる」
「希望? 」
「そう、これ」
広睦くんはふわり微笑んで私を抱き寄せた。
「ちょっとコーヒー、コーヒーが零れるでしょ」
「うん」
うんとか言いながら全然わかってない態度でしっかりと抱き寄せる。気持ちがふわっと舞い上がる。
「あったけ」
「いやいや。暑い、でしょ。それ、飲んでるのアイスコーヒーだから」
「ん」
広睦くんは私を後ろから抱きしめながら、私の持っている甘いコーヒーに刺さったストローに口をつけた。
「甘いな、めちゃくちゃ甘い」
わずかに濡れた唇が至近距離にあって直視できずに目を逸らす。
「え、そんな甘いかな」
「甘い、甘い。俺の将来への見通しより甘い」
「……それは、本当に甘いわね」
「んだとー? 」
「あははは、自分で言ったくせに」
「俺の今の気持ちは苦くなった」
「はははー、もうやめて。別にうまくないから」
近くで話されるとくすぐったくて身をよじるけど、離してくれる気はないみたいだ。それが気持ちを余計にふわふわさせる。広睦くんの感情を受け取っているみたいだ。
「ねえ、しつこいけど、聞いていい? 婚活ってさ何してんの? アプリ? 」
「えっとね。アプリメインかな。友達に誰か紹介してって声かけたりもしてる」
散々だったけど……。
「へえ、アプリってマッチング? 」
「そうそう。メッセージ何回かやり取りして、いいなって思ったら会う約束して何回か会って、そこから付き合うみたいな流れみたい。私も調べただけだけど」
「へぇ。俺の友達もやってる奴いたわ。SNSのDMで声かけたやつもいるし」
「そうなんだ。私の年はなかなか難しくもなってきていて。早くしなきゃね」
学生でもなかなか出会いって無いんだろうか。そう思っていると、広睦くんの腕にぐっと力が入った。
「振られる理由が年齢だけなんだったら、何とかしてみせるよ」
「え……? 」
聞き返すと同時に口を塞がれ、わずかに苦いコーヒーの味がする。
は、と息が漏れるとそれを許す気がないようにキスが続けられた。
自分の年に合った恋愛をして、自分の思い描く生活を実現していきたいと思っている。
その私の計画を滞らせる厄介な感情。理性が、今まで生きてきた常識が、出した結論を忘れさせてしまう。もういいじゃないかなって……。ずっと夢の中にいたくなってしまう。
コメント
1件
読み終えた……この2人の距離感、めちゃくちゃ好きだわ。春美さんの「自分がここにいるのが申し訳ない」感と、広睦くんの「年齢なんて関係ない」って言わんばかりの行動が、画面越しに刺さってきた。甘いコーヒー奪ってキス戻す流れ、反則級にかっこよすぎる。現実逃避したくなる気持ち、めっちゃわかるよ……。