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つい手を出してフィル様を階段から突き落としてしまったが、それによって、ようやくフィル様は冷静になられたようだ。自分の責務を思い出し、大人しく部屋に戻ってくれた。

大切なフィル様に怪我をさせてしまったことは、とても後悔している。だが足首を痛めたことで、城から逃げ出すことができなくなった。そのことに俺は少しだけ安堵した。

しかしこの後、フィル様には隣国の第二王子に会ってもらわねばならない。フィル様として会うことには断固として反対したが、フェリ様として会うことは賛成だ。新女王として会い、フィル様の口からはっきりとフィルという王子はいないと断言してもらいたい。

外国の賓客と会うためのドレスに着替えたフィル様は、とても美しかった。月の光を集めたような銀髪には、本当に黒がよく似合う。

俺は、歩くことが困難なフィル様を抱えて、賓客との謁見に使われる繊月の間に向かった。

繊月の間の控え室にいたトラビスが、フィル様を見て顔を赤く染める。

俺は冷ややかな目でトラビスを見た。

あれほどフィル様を敵対視していたのに、今さらそのような目で見るとは虫酸が走る。フィル様に邪な想いを持つ暇があるなら、今後一切フィル様が刺客等に襲われぬよう、警備に目を光らせろ。

そんな俺の内面など知る由もなく、優しいフィル様はトラビスに声をかけている。

そのことにも腹が立って、俺は素早くトラビスの横を通りすぎた。

繊月の間に入ると、フィル様が俺との思い出を話しだした。「覚えてる?」と聞かれて、俺は即座に「覚えています」と答えた。

フィル様とのことで、忘れたものなど何ひとつない。どんな些細なことでも覚えている。全てが大切な思い出だ。

フィル様を椅子に下ろすと、緊張からかフィル様の様子がおかしくなった。

俺はフィル様の手に触れて、呼吸を整えるように言って落ち着かせる。

素直に言うことを聞いて落ち着いてきたフィル様に微笑むと、俺は隣で背筋を伸ばして立った。

実は俺の方が緊張していかもしれない。普段は緊張などしたことがないのに。隣国の第二王子に会うことが怖いのか?いや、フィル様と第二王子を会わせることが怖いのだ。

フィル様を想っているらしい第二王子だ。きっと玉座に座っているのがフィル様だと気づくだろう。もしも第二王子がフィル様をさらおうとしたなら…俺は迷わず王子を斬る。何としてもフィル様を渡さない。

フィル様にも、もし王子が変なことをしたら遠慮なく斬りますと伝える。

自分が女王として対応するから大丈夫だと話すフィル様に、つい愛しい目を向けてしまう。

話している内に隣国の第二王子が扉の前に着いた。

「バイロン国の第二王子、リアム様が参られました!」

大きな声の後に扉がゆっくりと開かれる。

開いた扉の向こう側に、煌めく美しい金髪の男が立っていた。

カツカツと音を鳴らして近づいてくる金髪の男を、俺は凝視した。

この男がフィル様の心を奪った隣国の王子…。俺と変わらぬ身長に品のある美しい顔。大きな紫の瞳に吸い込まれそうだ。

だが美しいだけの王子なら、どこの国にもいるだろう。フィル様は、この男のどこを好きになったのか。

隣国の王子は、玉座から少し離れた位置で止まり、片膝をついて顔を伏せた。女王からの言葉を待っているのだ。

俺は目を伏せたままのフィル様に声をかけた。

顔を上げて前方で膝をつく王子を見た瞬間、フィル様の身体が揺れた。そのまま飛び出していくのかと身構えたが、フィル様は動かなかった。

「どうぞ立ってください。遠い所からよく来てくださいました。礼を言います」

フィル様の声に、王子と従者の二人が立ち上がる。王子が顔を上げ、フィル様と見つめ合う。その時、王子の口が確かに「フィル」と動いたのを見た。

フィル様が冷静に、自分は新しく女王となったフェリだと説明をしている。

その言葉に王子が険しい顔をして、こちらへと足を踏み出した。

俺は無礼を承知で王子を止めようとした。しかし気の強そうな王子は、俺の言うことなど聞きもしない。

警備を任せているトラビスも、なぜか動こうとしない。そうこうするうちに王子がどんどんと近づいてくる。

咄嗟に前に出ようとした俺の腕を、フィル様が掴んで止めた。

フィル様に止められて、俺は元の位置に戻る。

しかしトラビスめ。何を考えているのか。王を護る役目を怠ったのだから、後で罰を与えてやらねば。

フィル様のすぐ目の前で止まった王子を、俺は鋭く睨みつけた。

フィル様が俺の失礼な態度に小さく息を吐き、王子に謝罪の言葉を口にする。

なぜフィル様が謝らなければいけない?失礼なのは目の前の男だ。

「私の側近が失礼をしました。しかしなぜそのように寄られるのか?あなたの部下が立っている場所が、他国の者と会う時の正しい距離です」

「フィル…フィルだろ?なぜよそよそしくする」

「…先ほどもラズールが答えましたけど…フィルとは誰ですか?」

「おまえだ」

「私は…フェリです…フィルではない…」

「フィー」

フィル様が手に持っていた扇子を落とした。身体が震えている。やはりフェリ様の代わりをすることは無理なのだろうか。

しかし今、聞き捨てならないことを聞いた。フィーだと?王子はフィル様をそのような愛称で呼んでいるのか。心の底から腹が立つ。

フィル様が立ち上がり王子のもとへ行こうとする。だが怪我をした足のせいで、前のめりに倒れそうになった。

名前を呼んで手を伸ばした王子よりも早く、俺はフィル様を抱きとめた。

俺はフィル様に怪我をさせたことを後悔はしたが、怪我のせいで思う通りに王子のもとへ行けないフィル様を見て、少しだけ満足した。

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