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🫧第8章(修正版)|「昼休み、気配と泡の距離」
昼休み。教室はざわざわとした声と、春の光に包まれていた。
聖名(みな)は自席で泡日記を広げるふりをしながら、斜め前に座る律の背中を目で追っていた。
律は窓際。背中の向こうには光が差していて、制服の襟元が泡舞踏会で着ていた“時計うさぎ”の衣装の残像と重なる。
彼はペンでノートに何かを書きながら、ときどきキャップを軽く転がしていた。
昼休み。教室の風景。
わたしは「斜め前にいる律くん」を見ていた。
正面からじゃない、
背中でもない、でも確かに“彼の気配”がそこにあった。
わたしだけが昨日の夢を引きずってる気がして、
呼びかけることも、名前を口にすることもできない。
でもその距離って、
ほんとうは泡の中のダンスより近いかもしれないって思った。
名前を呼ばなくても、
律くんの筆記音が“おかえり”って言ってた。
ふと、律の手が止まり、ノートのページがめくられた。
泡の粒みたいな文字――丸くて淡い線――それがほんの一瞬だけ、聖名(みな)の視界に入った。
「昼休みは静かだね。
隣じゃないのに、君の気配だけが泡の続きを持っている。」
聖名(みな)はそれを見て、声を出さずに笑った。
だけどページの端が泡のように震えていて、
言葉じゃない感情が、ほんの少し胸に音を立てていた。