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入学から数週間が過ぎ、高度育成高等学校での生活にも、少しずつ慣れてきていた。
1年Dクラスは相変わらず賑やかで、明るく誰とでも仲良くなれる 櫛田桔梗 のおかげで、クラスの雰囲気も和やかだった。
あたしも桔梗ちゃんや周りのクラスメイトたちと打ち解けながら、毎日を楽しく過ごしていた。
けれど――
どんなに賑やかな教室の中でも、気づけば視線はひとりの少年を探してしまう。
教室の後ろの席で、静かに過ごす 綾小路清隆。
無表情で、口数も少なく、どこか掴みどころのない存在。
それなのに、ひなの心は少しずつ彼に惹かれていた。
昼休み。
ひなは購買で買ったパンを持って席へ戻る途中、机の角に足をぶつけてしまった。
「あっ……!」
バランスを崩し、パンが床に落ちそうになる。
その瞬間、すっと伸びた手がそれを受け止めた。
「……危なかったな」
綾小路くんだった。
「わっ……! ありがとう!」
「別に。たまたまだ」
そう言ってパンを差し出す。
相変わらず表情は変わらない。
けれど、そのさりげない行動にひなの胸は高鳴った。
「隣、座ってもいいか」
突然の言葉に、ひなは目を丸くする。
「えっ、もちろん!」
綾小路くんは静かに席に座った。
教室のざわめきの中、二人だけの時間が始まる。
「最近、クラスにも慣れてきたみたいだな」
「うん。みんな優しいし、毎日楽しいよ」
「そうか」
短い会話。
それでも、彼が自分のことを気にかけてくれていたとわかって嬉しくなる。
少し勇気を出して尋ねる。
「綾小路くんは、学校楽しい?」
彼は少し考えてから答えた。
「……悪くない」
そして、ほんの少し間を置いて続ける。
「お前と話している時間も含めてな」
その一言に、ひなの頬が一気に熱くなる。
「えっ……!」
綾小路くんは何事もなかったようにパンを口に運んでいた。
放課後。
教室の窓から夕陽が差し込む中、今日の出来事を思い返していた。
さりげなく助けてくれたこと。
隣で昼食を食べたこと。
そして――
「お前と話している時間も含めてな」
その言葉が何度も胸の中で繰り返される。
窓の外の空を見上げながら、あたしそっとつぶやいた。
「もっと、綾小路くんのことを知りたいな……」
静かな視線の先にいる少年は、
気づけば、あたしの毎日を少しずつ特別なものに変えていた。