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「第一種戦闘配備、動ける第一狩猟部隊は私の直援を、第二部隊はこの祭会場を包囲し、誰一人逃さないように。無理に逃げようとするなら殺しても構いません。テロリストを一人足りとも逃してはいけませんよ」
『了解』
『私はどうすれば?』
「第二狩猟部隊の指揮権を任せます」
「では、クルーテオを光の帝国への攻撃者と断定し、始末します」
キルゲ・シュタインビルドがクルーテオのいるVIP観客席へ押し入った直前、窓ガラスが割れてミケランジェロ王に突き刺さった。
やったのはライナーだ。
即座に反応したのは、偶然その場にいたエルフの女騎士だけ。他は対応できないでいた。
いつしか太陽は分厚い雲に遮られ、薄闇が辺りを覆っていた。
雲の中から雷鳴の音が聞こえる。
ポツポツと雨が降り始めた。
ゆっくりと、ライナーが窓ガラスから入ってくる。
「何をしている! さっさと殺せ!!」
クルーテオの怒号が響き渡り、様子を窺っていた彼の配下たちが動き出す。
穴の前に立ち塞がるライナーを取り囲むように動いた彼らは、一斉にライナーへ飛び掛かる。
しかし、次の瞬間。
漆黒の一閃が、彼らを薙ぎ払った。
たった一太刀。クルーテオが選び抜いた自慢の魔剣士たちは、弾き飛ばされ地に転がった。
「そんな……」
これが、ライナー。噂には聞いていたが、有象無象では相手にもならない。
クルーテオは血の滲む腹を押さえて後退る。
「だ、誰か! 誰かいないのか!? 奴を倒せる者はいないのかッ!?」
そして絶叫する。
しかし返ってきたのは、雨の音だけだった。
ミケランジェロ王国の騎士たちは、ライナーを遠巻きに取り囲み動こうとしない。
数々のテロ事件を起こしているライナーの実力を侮る者は誰一人いなかった。
雨がひどく降ってきた。大粒の水滴が、叩きつけるように降り注ぐ。 ライナーの茶色のロングコートは雨に濡れて、雷光を反射する。
雷光が走る度、ライナーの姿が薄闇に浮かび上がる。
「私が出る」
その声と同時に、灰色のローブの女が空に飛んだ。 彼女は空中でローブを脱ぎ捨て、長剣を抜き戦場に降り立つ。
「エルフ耳に、獣人の牙、骨の仮面、エルフの英雄スーパーノヴァ」
誰かが呟いた。
雨の中剣を構える彼女は、美しい金髪のエルフだった。 彼女は胸当てと腰布だけの薄着で、白い素肌が雨に濡れ雷光で輝く。
ライナーとスーパーノヴァ。二人は間合いを探るように静かに対峙した。
戦いの始まりは、激しい雷鳴と同時だった。
ライナーはスーパーノヴァの長剣に合わせるように、漆黒の刀を長く伸ばす。
そして、一閃。
ライナーは漆黒の刀を薙いだ。
雨が斬れた。
刀の軌跡に、一瞬だけ雨のない空白が生まれる。
そう、シャドウは空振ったのだ。
「なるほど」
スーパーノヴァは瞬時に半歩下がり、ライナーの横薙ぎを避けた。
そして、反撃に転じる。
槍のように鋭い刺突がライナーを襲う。 ライナーが笑う。ライナーは刺突を半身になって躱し、戻りに合わせて刀を振る。
しかし、スーパーノヴァの戻しも速い。
彼女は長剣の戻しと同時に身を沈め、シャドウの刀を避ける。
そして反撃に転じてゆく。
二人は、ただ雨だけを斬り裂いた。
瞬く間に数十の剣撃が飛び交い、振り注ぐ雨を切り裂いてゆく。
切り裂かれた雨が小さな飛沫となって、雷光に輝く美しき軌跡を描いた。
息を呑んで二人の戦いに見入る。
それは、まさしく舞のようだった。
常人ではとても目に追えない剣の動きが、雨と雷光によって空に残る。
美しき剣の舞。
この二人が、剣の頂きにいることを誰もが理解した。 いつまでも見ていたい二人の舞に、終わりを告げたのはライナーだった。
「強いな、流石はエルフの大英雄」
ライナーは間合いを外し、スーパーノヴァを見据えた。 スーパーノヴァも追撃せず息を整える。豊かな胸元が上下した。
「私の剣についてこれるなんて凄い」
彼女は溜息を吐くように、感嘆の声を上げた。
その青い瞳はただライナーを見据えている。
二人はしばらく見合った。
「真剣、抜刀」
ライナーはそう言うと、漆黒の刀を元の長さに戻した。
それが、彼本来の間合い。
「殺す」
声と同時に、彼は一瞬で踏み込む。
いとも簡単に、間合いが潰れる。
「ッ!?」
そして、衝撃が走った。
スーパーノヴァは間合いを詰められた瞬間に攻撃を捨て、防御に集中していた。しかし、彼女にはライナーの刀が全く見えなかった。
その一撃は――雨を、斬らなかったのだ。
「――くっ!!」
衝撃に弾かれて、彼女は雨の中を転がった。
刀は見えなかったが、彼女は勘だけで防いでみせたのだ。しかし、かろうじて防いだだけだ。無様に弾き飛ばされて、反撃もできない。
彼女はすぐさま立ち上がり、追撃に備える。
雷鳴が轟き、光と共にライナーが消えた。
その一瞬で、ライナーは目前にいた。
見えない刀が振られる。
彼女はライナーの刀に全神経を集中し、そしてまた衝撃に襲われた。
「――ッ!!」
見えなかった。
スーパーノヴァは泥で汚れた顔をそのままに、立ち上がるとすぐ後ろに飛んで距離を離した。
かろうじて防御できたのは、勘と運が良かっただけだ。
次を防げる保証はない。
追撃は来なかった。
スーパーノヴァは雷光の下で構えるシャドウを見据えて考える。
「剣筋が、なぜ、見えない? 」
ただ単純に速いだけではない。ライナーの剣は何かが違う。
スーパーノヴァはその長い戦いの人生の中から、答えを見つけ出した。
ライナーの剣は――空気なのだ。
戦いで、幾多の剣を応酬する中で、速い剣は確かに脅威だ。しかし、速くとも必ず予備動作がある。予備動作がなくとも攻撃の瞬間は経験で分かる。意識さえしていれば対応は可能だ。
戦いの中で最も脅威となる剣は、いつだって意識の外からやってくる。そこに速さは必要ない。意識の外に出ればいい。
ライナーの剣は空気だった。殺意も、淀みも、力みなく、ただ自然のままに振るわれる。 降り注ぐ雨を意識しないように、ライナーの剣は意識できない。
「は、ははは!!」
スーパーノヴァはシャドウの剣の深さにただ感嘆した。彼の技は、誰も辿り着けない深淵にある。
そして、己の敗北を覚悟した。
「お前を、殺す」
ライナーがサーベルを構える。
次を防ぐ自信は、スーパーノヴァに無かった。
「ぐぎゃ」
ゴトン、とクルーテオの体が地面に倒れる。
二人が戦っている隙に、キルゲ・シュタインビルドは第一目標であるを始末したのだ。
「さて、大英雄スーパーノヴァとライナー……どうしましょうかね」
むぅ、とキルゲ・シュタインビルドは考える。
殺すことは容易い。しかしそれだと計画に支障を着たしてしまう。テロリストを利用した異世界の掌握計画が遅れてしまう。
それは許されない。しかしここでテロリストのライナーに加勢するのもおかしい。
悩むキルゲ・シュタインビルドに、刃が振るわれた。
「この、私が気付かないとでも?」
「流石だ、殲滅師。どうやら君の実力は、聖王よりただ与えられただけではないらしい」
攻撃を行ったのは一般兵。
「迷え消え失えろ、明渠止水」
その台詞と共にバリン!! と世界が割れて、魔物の群れとそれを統率する主がその場に顕現した。