この作品はいかがでしたか?
30
この作品はいかがでしたか?
30
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「完全殲滅形態体・神の正義」
キルゲ・シュタインビルドに青い光の翼が生えて、頭上に光輪が浮かぶ。
「ほぅ、これは」
「ヴェイン様、お下がりください」
ヴェインの前に立つ魔物が、キルゲ・シュタインビルドに吸収されてボロボロと崩れて消えた。
霊子の隷属により、この場の霊子は全てキルゲ・シュタインビルドの支配下になっている。故に人は常時エネルギーを吸い取られ、肉体は抉られて、あらゆる技は崩壊する。
しかしヴェインの霊圧は揺るがない。
「ジャック・ザ・リッパー、君のリベンチマッチだ。私に君の力を見せておくれ」
ヴェインの背後に蠢く影は不定形であり、常に妖しく揺らいでいた。まるで現実味の無い光景だった。其処に普段から日常的に接している親友が居れば尚の事度し難い光景となる。
大英雄スーパーノヴァの思考はある種の麻痺状態に陥っていた。
この状況を正確に理解すれば後戻りが出来なくなるという本能的な危機感が後押しした結果なのだろう。
「さて、ライナー君とスーパーノヴァといったかな。君達は私が相手になろう。この世界の上澄みの力を測る良い機会だ。全力できたまえ。何、安心すると良い。今の私はキルゲ・シュタインビルド君の霊子隷属により十分の一以下の力しか出せない。恐れず向かってくると良い」
あまりにも上目線の言葉に、スーパーノヴァは問答無用とばかりに切り掛かった。そこにはヴェインの圧倒的な霊圧により正確な判断ができていなかった。
「今の一撃を受け止めるか」
ヴェインとスーパーノヴァの攻防を冷静に観察して、ライナーも内心焦る。
(この状態で動けるスーパーノヴァも凄いが、ヴェイン……規格外だ)
虚空を睨みつけるような彼女の眼はやはり錯覚では無いのか、滴る血のように赤く輝いている。
爛々と狂おしいばかりに輝いていながら、その色は恐怖に染まっていた。本能のまま剣を振るっている。
「そこの茶色の。協力してくれ」
「……ッ」
「おい!」
ライナーは答えない。
戦えば必ず負けると鍛え上げたセンスが危険信号を鳴らしている。
「恐れるのも無理もない。圧倒的な強者と出会った時、人は誰しも恐怖する。君は恐怖している。私を恐怖している。逃げるか、戦うか、迷っているようだね」
「逃げられるわけない! 戦うしかない! 茶色の!!」
「ああ、わかっている」
その一言が合図となったのか、ライナーの足元から黒い影が一斉に蠢き、地面のコンクリートを打ち砕きながらヴェインの下へ殺到する。
「……」
ヴェインは自動的に体外へ排出される霊圧が防御装甲が展開したのと同じ役割を果たし、真正面から受け止めることになった。
ヴェインが剣を一振りすると、背後から迫っていたスーパーノヴァは受け止め切れずにダンプカーに撥ねられたかの如く吹き飛ばされ、十数メートル彼方の壁に激突し、脆くも倒壊させてしまった。
背中に走る激痛を堪えながら、スーパーノヴァは弱々しく立ち上がる。
ライナーの黒い影は先程よりも大きく流動し、蠢いていた。その全てが震えて慄く自身の姿を克明に捉えていた。
「行け!」
「芸が無いな」
黒い影はヴェインに到達する前に四散した。
ヴェインの姿がブレる。
一滴二滴、血の落ちる音が鳴り響く。
もう動かなくなったライナーから刀を引き抜き、溢れる血がゆっくり地面に広がっていた。
零れ落ちた血は背後に流れ、地面に消え果てる。衣服を穢した流血がただその傷の深さを物語っていた。
「つ、強すぎる……何者だ、お前は」
ヴェインに大英雄スーパーノヴァは問いかける。
恐怖で揺れる彼女を、ヴェインは子供じみた道化だと笑った。
「そろそろ、君は血が欲しくなっている頃ではないかな」
「何?」
ズキンと頭が痛む。
目の前にヴェインが放り捨てられる。
深い血の香りがする。
知らずスーパーノヴァは牙をシャドウに突き立ていた、吸血をしている瞬間は地獄のような苦しみから解放される。脳から生じる苦痛や痛みは血という甘美な快楽で打ち消してくれる。
今まで以上に、自分自身が人間ではなく、怪物である事を自覚する。
「何故……私は血を? どうしてこんな美味しく感じるんだ? 私は……私は? うううううっ、がはっ!? あああ!?」
これなら、まだ十全に活動出来る。思っていた以上に限界は遠い。これなら敵を殲滅させる事が出来るだろう。
血を吸い切り、既に事切れた男を突き飛ばす。
「ううううう、があああああ!!」
スーパーノヴァは白い泥のようなものが顔を包み、胸に穴が空いて、全身に装甲を展開する。
死体は黒い影に沈み、跡形も無く葬り去られる。
ずきり、と一瞬だけ生じた激痛に目に涙を滲ませる。
『敵ヲ……倒ㇲ、倒ㇲ……敵ヲ!!』
「魔物化に成功……あとはそれを従える本能が、彼女にあるかどうかだ。さぁ、失望させないでくれ。大英雄スーパーノヴァ」
憎き怨敵を脳裏に思い描き、憎悪が激痛を凌駕する。
どうやって殺してやろうか。絶対に楽には殺さない。殺してと懇願するまで壊して、思い知らせてやる。
『ヲヲ、ナンダ、コノ姿ハ』
怪物だ。敵を倒す為に怪物になる。それは
正しいことなのだろうか?
脳裏に過ぎった感慨を振り払い、スーパーノヴァは立ち上がる。
既に日は落ちつつある。これからは自分達の時間だ。今日で何もかも終わらせる。
殺して殺して殺し尽くして、スーパーノヴァは敵殺すことを遂げる。最期まで狂気に飲まれずやり遂げなければならない。
――さぁ、狩りの時間だ。世界の支配者である虚の、一方的な惨殺劇の始まりである。そうなる筈だった。物語通り英雄の性能を誇るスーパーノヴァした存在に敵などいない。
全てが出鱈目で滅茶苦茶な強さ、理不尽の頂点に位置するのが英雄という怪物なのだから。
――ただこのヴェイン、キルゲ・シュタインビルドがいる世界で同じ事を言えるかと問われれば、否である。
「百本乱刃」
魔物化したスーパーノヴァの体に向けて、黄色い光の棒が発射される。その全てがに突き刺さり、貼り付けられて次々と固定化される。
『ガァ!? イアアイアイ!?』
異常な攻撃を目の当たりにし、スーパーノヴァは即座にパワーを入れて拘束を振りほどく。そして次の攻撃に備える。
ヴェインはスーパーノヴァに視線を向けていなかった。
――かつん、かつん、と、甲高い靴音が等間隔に鳴り響いてく。
それはまるで死神の足音のように、鼓膜の奥を反芻する。
何一つ恐れず、一方的に恐怖を撒き散らす暴君だった筈の彼女は、この未知の存在に本能的な恐怖を抱いた。
そして現れたのは白亜の制服に見を包んだ眼鏡の男だった。
獣のような青髪の青年を片手に持って、天使の翼と天使の輪っかを主張させながら降り立つ。
「魔物化ですか、我々以外にもこの技術を有しているとは……この情報を得られていないとは全く狩猟部隊の隊長として頭痛がしますよ」
――これは一体、何の悪夢だ?
今のこの光景が現実であるのかとスーパーノヴァは疑う。
スーパーノヴァの体からは怒涛の如きエネルギーが控えている。狩るのは自分で狩られるのはその他全員だ。それなのにあの男達はは何故笑っていられる……?
『キサマ、ら、何者ダ……!?』
「キルゲ・シュタインビルド。光の帝国・星十字騎士団所属・狩猟部隊隊長です」
「ヴェイン……しがない一般人さ」
眼鏡を片手でくいっと上げ、不気味な光を宿した『狩猟部隊隊長』は変わらぬ速度で前進する。
「消えなさい.」
「ウオオオあお!!」
恐怖に駆られ、スーパーノヴァは自らの肉体に戦闘を命じる。
キルゲ・シュタインビルドに吸収されては製造されるエネルギーは馬鹿げた力でスーパーノヴァを押し出し、キルゲ・シュタインビルドの下に殺到する。巨大な大波が飛沫を打ち消すようなものであり、たかが人に過ぎないキルゲ・シュタインビルドは何一つ抵抗出来ず――。
『ナゼ』
エネルギーの大波が真っ二つに割れた。それはモーゼの如く、否、四つに八つに十六つ三十二つに――身体を幾重に引き裂かれて舞い散る血飛沫さえ両断される。
武神と称された英雄の虚化の動体視力を持ってしても、キルゲ・シュタインビルドの弓と矢が振るわれた瞬間を捉える事が出来なかった。
『――怪物……』
「怪物は貴方ですよ」
目の前にいるキルゲ・シュタインビルドが自分と同類、怪物であるならば動揺などしなかった。それぐらいでは驚きもしないだろう。
だが、これを人間と呼ぶ訳にはいかない。認める訳にはいかない。こんな化け物より化け物らしい人間など――!
「ふむ、流石は聖王に異世界の先見隊の任を与えられた殲滅師だ。その戦闘力は折り紙付きか」
――大波は引き裂かれ、それでもスーパーノヴァは構わず進撃する。
全身に走る激痛だけが現実味あって――あそこまで切り刻まれて死なないスーパーノヴァは正真正銘の化物であり、目の前のキルゲ・シュタインビルドと比べても劣ってないと悟る。
再び聖なる一撃で一閃し、滅却師は一方的にスーパーノヴァの纏うエネルギーを解体していく。
「薄汚いですねぇ、さて、どうしますか」
殲滅師は全身全霊を以って聖なる一撃を縦横無尽に振るう。
対する黒い不定形だったエネルギーは今度は明確な形を取っていく。
切り刻み、押し潰し、突き殺し、何もかも粉砕し、風圧だけで幾百を吹き飛ばし、地獄のような只中でキルゲ・シュタインビルドは淡々と作業するように斬り殺していく。
「消え失せなさい」
キルゲ・シュタインビルドの聖なる砲撃によってスーパーノヴァの一部が吹き飛ばされる。
『ガアアア……!』
あの殲滅師が聖なる砲撃を放つ度に激震が走り、世界全体が揺れる。
一体何方が理性無き狂戦士なのかは、傍目から見たら判別出来ないだろう。
スーパーノヴァは魔物によって、魂を生贄に無尽蔵にエネルギーを摂取して、更なる暴力暴虐を振るい、キルゲ・シュタインビルドと真正面から五角以上に渡り合っていた。
あの馬鹿げた重量がありそうな弓矢と剣の形をした聖なる一撃を、羽の如く軽さで扱っている。怒涛の如く押し寄せる怪物の猛攻を、それを上回る攻勢をもって殲滅して行っている。
(マ、ズイ。コノママ、デハ!!)
まさかの事態だ。唯一人を相手にして此方の魂枯渇による自滅の方が早い。
あの殲滅師も無傷という訳にはいかず、処々に負傷して血を流しているが、動きが鈍る処か、更に増すばかりだ。
鬼神の如き猛攻は更に鋭く、更に力強く、一閃毎に加速し苛烈していく。
『モット、モット、力ヲ!!』
「まさか」
「ほう、魂食いか」
魂食い。
それは虚が行う無差別で広範囲から、魂を吸い取る技法だ。餓えた虚や、腹が減った魂が行う急速なエネルギー吸収方法だ。しかし文字通り魂を吸い取るので、周囲の人間は死ぬ。
魔物化スーパーノヴァはその場から逃げ出した。
「――っ、ぁ……あぁっ、がっ……」
――魂が、足りない。
「あ、がぁ」
魔力が足りない。
「おごご、がは、うっ」
身体の感覚が徐々に無くなって来ている。
ぼろぼろの身体では歩く事すらままならず、その歩みを牛歩の如く遅める。痛覚に異常を来たしたのか、自分の存在が不明瞭なまでに浮いている。
『倒レル……ワケニハ……』
まだ倒れる訳にはいかない。
此処で立ち止まれば、妹を助けるまで届かない。歩く。ひたすら進んでいく。
辿り着いてしまえば大丈夫だ。後は残りの生命を再充填すれば良い。
倒して、逃げる。
それで目的は果たされる
分不相応、自分には一つの事を成すので精一杯だ。
二つを追って二つとも成せる道理は無い。
片方さえ満足に熟せないでいるのだ。
最初から一つに絞るべきだった。
妹を助けるために。
――月夜の下、その黒尽くめの青年はまるで待ち侘びていたかのように立っていた。
太刀を堂々と帯刀している。
今まで出遭った中で最も濃厚な血の香りを漂わせた悪鬼羅刹は不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。
『先周リ、ガァ』
「グランツ・ザク」
「はい、ここに」
魔物化スーパーノヴァは拘束される。
その攻撃は余りにも予想外であり、思わず思考を停止させてしまった。
『何故、ワタシの邪魔をスル!!? 私は妹の為に!!』
「逆に問おう。お前が殺してきた人間は殺して良い人間だったのか?」
「……え?」
――即座に会話を拒否する。
これを聞いては、今まで誤魔化してきた全てを正視する事になる――!
「君が、エネルギー供給の為に食い殺させた人間は、死ぬに足る人間だったのか? お前の妹の探すという大義名分で殺して良い人間だったのかい?」
既に自分は単なる加害者でしかない――。
心が砕ける音が、自分の中で鳴り響いたような気がした。
「――最早、人間の価値観ならはま加害者であるが、光の帝国の犠牲者である事は変わるまい。『悪』と断ずるには哀れすぎる少女だ。グランツの研究で生まれ変われるだろう」
視界が真っ黒く塗り潰された。
キルゲ・シュタインビルドはヴェインとその仲間と魔物化スーパーノヴァ霊圧が消えたのを感知して、殲滅形態を解除した。
「さぁ、事後処理するとしますか」