コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
俺はこの先もずっと、応援してくれる人達の為に
精一杯の音楽を届けたい。
俺はちっとも器用じゃないから、
今まで何度も心が折れそうになったし、
その度に“彼”の言葉に救われてきた。
まだまだ迷ってばかりの俺だけど、
俺を想ってくれるみんなと、大切な仲間と、
それから俺に希望を見せてくれる“彼”の為に、
これからも生きていきたい。
そしていつか胸を張って自分のことを、
“王子”って言えるようになったら、
ちゃんと伝えてみせるんだ。
あの時は本当に、“ありがとう”って___
ガチャ。パタン。
今日2度目のドアの閉まる音が、会議室に響く。
「こさめちゃん、大丈夫かなぁ…。」
「まぁ大丈夫だろ。
LANの家ってそんなに遠くねぇし。」
そうは言っても、今日のこさめちゃんはなんだか、
いつもと違うように見えたし、少し心配だ。
「心配するのも大事だけど…
みこちゃん、君は仕事仕事。」
「わぁ、ごめんね、すちくん…!」
「いや別に大丈夫だよ…w ほら、一緒にしよ?」
「おけ!」
確かに心配ばかりしてはいられない。
すちくんに迷惑は掛けられないし、
俺は自分の仕事を頑張らなきゃ…!
「…なぁいるまー、これどう思う?」
「良いんじゃない?流石なつって感じ。」
「まじ?ありがとw」
まにきとなっちゃんはいつも通りだし、
俺だけが足を引っ張る訳には行かない。
でも…
「あー…俺よく頑張ったわ、うん。」
「ん…お疲れー…」
「いるまは何してんの?
…うわ、数字ばっかで見るだけで気持ちわりぃな。」
「俺だってやりたくてやってんじゃねぇよ。」
…まにきたち、流石に近すぎない!?
なっちゃんの距離が近いのはみんなにだけど、
まにきがあんなに誰かとひっついてるのは、
なっちゃん以外では見かけない気がする…。
「…くぅ…。」
「どしたのみこちゃん、唸ったりして。」
「うわぁ!」
急にすちくんの顔が近くなって、
思わずびっくりして大声を出してしまった。
「みこと?どした、なんかあった?」
「お前また大声出して…元気だなw」
向こうの2人にも心配されちゃったし…
「うぅ…すちくん…なんでもないよ…。」
「えっ、あ、えーと…
びっくりさせちゃったよね、ごめん…?」
「ううん、ぼーっとしてた俺が悪い!ごめん!」
ダメだダメだ、俺がぼーっとしてたのを、
すちくんのせいにしちゃうのは良くない!
「ちょっと飲み物買ってくる!」
「え、うん…行ってらっしゃい、みこちゃんw」
すちくんにもとうとう笑われてしまったけれど、
それより気持ちを切り替える方が先決だ。
自販機まで行って、ちょっと落ち着こう…。
ガチャ。パタン。
ボイシングのオフィス内には、
ところどころに自販機が設置されている。
俺のお気に入りがあるのは、
シクフォニの会議室から少し離れたところ。
一人で落ち着くには、丁度良い静けさだ。
「…はぁ…」
今日はあんまり調子が良くない。
体調が悪いとかじゃなくて、
なぜか上手く仕事に集中出来ない日だ。
「…らんらんの体調も心配だし…
こさめちゃんはちゃんと家に行けたのかな…。」
それに…もっと個人的なことも考えてしまう。
「…まにきは…なっちゃんのこと…」
「呼んだ?」
思いもよらぬところから声がして、
反射的にまた叫んでしまった。
「うわぁ!」
自販機の影から出てきたのは、俺が現在進行系で
頭に思い浮かべていたメンバーの1人。
「…ごめん…w
今のは驚かせる気とか1ミリもなかったわごめんw」
数少ない自分の好きなところとして、
自分の声を何番目かにあげる俺とは真逆で、
自分の声が大嫌いだと言っている、
珍しいタイプの歌い手メンバー。
俺はその声がかなり好きだと言うことは、
実は何度か伝えたことがあったりする。
「…まにき…びっくりしたぁ…。」
「俺もなんか飲み物買おうと思って来たら、
みことが1人でブツブツ何か言ってるから、
どしたんかなと思って。」
「変なことは言ってないよ!?
らんらんとこさめちゃん大丈夫かなと思って…。」
「別に変なことだとは言ってねぇよw
でもなんか…俺の名前呼ばなかった?」
やばいやばいやばい。
なんとかして誤魔化さないと…!
「よ、呼んでない…!
えっと…い、イルカ!イルカって言ったの!」
「お、おう…w
え…なんでイルカ?それまた唐突だけど…w」
「うっ…!えっとえっと…そう!
イルカって、可愛いよなって思って…!
さっきYouTube開いたらイルカの動画出てきて!」
「あーまぁ確かに可愛いよな。
俺もイルカわりと好きだな。」
なんとか誤魔化せたかな…?良かった…。
「…って、ごめん!自販機使うよね。何買うの?」
「ん、ジャスミンティー。」
「あぁそっか、好きなんだっけ。」
「うん。あれ?話したことあったっけ?」
「確か配信で言ってなかった?
ジャスミンティーを盗みそうになったって話。」
「あぁ…wよく聞いてんな、そんな話まで。」
「出来るだけみんなの配信聞くようにしてるから!
俺はまだまだ話すのとか下手だから、
みんなのを参考にさせて頂こうと思いまして…w」
…まにきの配信の時だけは、
必ず予定空けてまで聞いてるなんて言えない…。
「偉いねぇ。でもみことも初期と比べたら、
めちゃめちゃ配信上手くなったと思うよ。」
「え…」
突然の褒め言葉に、驚いて間抜けな声が出た。
「何その顔wおもろ…w」
「…笑うな…!w」
「はいはい、ごめんごめん…w」
謝ってるくせに笑うのはやめないなんて、
ほんとまにきの言葉は信用ならないなぁ。
でも…
「…今なら…」
「ん?なんか言った?」
「…へ、いや、なんでもない!」
「そう?今日のみことちょっと変じゃね?w」
…今ならなっちゃんみたいに抱きついたりしても、
拒絶されないかなと思っただけだ。
ただ、それだけ。
思うだけで、絶対に行動には移せないけど。
「そんなことないよ!俺はいつも通り!」
「そ?ならいいけど。」
そう言いながらも、ちょっと心配そうな顔をして_
俺のおでこに、冷たい手が当てられた。
「…っ…!」
思わず目を瞑っちゃった俺と、
取り乱した様子もなく平然と話すこの手の主。
「んー…熱はねぇみたいだなぁ…。」
ぺたぺたと触りながら、頬にまで手が降りてくる。
「ま、大丈夫か。…って、おい、みこと?」
やっと手が離れたと思ったら、
次は顔を近付けて見てくるからどうしようもない。
「おーい、だいじょーぶかー?」
その瞬間、
キャパオーバーすぎて膝から力が抜けてしまった。
「え、おい、みこと?」
…無自覚って、本当にずるいと思う。
「…ご、ごめっ…!
ちょっと…びっくりしちゃって…。」
こっちは語彙力が全部吹っ飛んじゃうくらい、
意識しちゃったというのに。
「急に触ったからか?ごめん。
今日はびっくりさせてばっかだな…。」
さり気なく手を差し伸べてくれるところとか、
紳士的だなぁなんて考えてしまう俺は重症だ。
「…ありがとう。」
俺が何に対してお礼を言ってるのかなんて、
なんにも気付きもしないずるい人。
「ん。むしろごめんな。」
「いや、全然大丈夫!俺こそ…ごめんね!」
「ははっw…そろそろ会議室戻るか…w」
「うん…!」
隣から聴こえる低い声が、
俺の心をいちいち揺れ動かしていることなんて、
きっと彼はちっとも知らない。
触れられる度に意識してしまうなんて、
そんなこと言える訳もない。
でも、彼の隣を歩く権利が欲しくて、
ずっとその声を聴いていたくて、
俺は今、この場所で音楽と関わっている。
たとえ彼が、なっちゃんのことが好きでも。
俺は彼の1番にはなれないままでも。
それでもせめて、“仲間”として傍にいられるように_
_これからもこの声に乗せて、想いを届けるよ。