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昔から、褒められる事が多かった。
勉強も運動もそれなりに出来たし、
歌も絵もかなり得意な方だったから。
でも、ずっと何かが足りなかった。
誰かに“凄いね”と褒められる度に、
嬉しい筈なのに心が冷えていくのを感じていた。
“特別”だと言われる事が怖かった。
そうやって遠ざけられて、
独りになるのはもう嫌だった。
だけど君に出会って、君の心の在り方を知って、
君の“特別”になりたいと思った。
真っ直ぐで、純粋で、眩しいくらいに綺麗で。
俺はいつか、そんな君の心を埋め尽くすくらいに、
君にとって特別な存在になりたい_
_その為なら、何だってしてみせるから。
ガチャ。パタン。
らんらんが帰って、こさめちゃんが追いかけて、
そしてとうとう、3人目が出ていってしまった。
まぁ飲み物を買いに行くだけだから、
すぐに戻ってくるだろうけど。
「…それにしても今日のみこちゃん、
なんだか気が抜けてて可愛かったなぁ…。」
「…おい、聞こえてんぞすち。」
「…あ。」
危ない危ない。
心の中で呟いたつもりが、口に出ていたらしい。
「みことのこと可愛がるのも良いけど、
お前まで仕事終わりませんでしたってのは、
頼むから勘弁してくれよ。」
「だいじょぶだよ、いるまちゃん。
俺の仕事…っていうか俺とみこちゃんの仕事は、
あと30分もすれば終わるから。」
「…おぉ、相変わらず仕事が早くて助かるわ…w」
若干引き気味に笑うのはやめて欲しい。
これでもいつもより遅いくらいのスピードで、
みこちゃんと話しながら進めていたというのに。
「…俺はもうちょいかかりそうだし…
気分転換に飲み物買ってこよーかなぁ。」
「あ、じゃあ俺の分もよろしく〜。」
「了解、いつものな。」
「ん、さんきゅ。」
テンポの良い会話をなっちゃんと繰り広げた後、
いるまちゃんは出ていってしまう。
その先にみこちゃんがいるかもと思うと、
自分が行くと言わなかった事を少しだけ後悔した。
ガチャ。パタン。
2人きりになった会議室。
いつもの騒がしさはどこへ行ったのかと思う程に、
静かな時間が過ぎていく。
なんだか落ち着かなくて、仕事の片手間を装って、
スマホで遊んでいるひまちゃんに話しかけてみた。
「ね、ひまちゃん。」
「んー?」
話す事は特に何も考えていなかったけれど、
どうせだから気になっていた事を聞いてみようか。
「ひまちゃんはさぁ…いるまちゃんのこと、
もしかして結構本気で好きだったり、する?」
「…は?」
見たことないくらい怖い顔で睨まれた。
「あ、いや、ごめん、やっぱ冗談ってことで…」
「…そうだったら、何?」
「ごめんねって…え…?」
動揺させたくて話し始めた筈なのに、
いつの間にか動揺していたのは俺の方だった。
「それを聞いて、すちになんか得あるの?」
「え、あ、いや…」
何か、言わなければ。
真っ直ぐに俺の目を見て話しているひまちゃんの、
その真剣さに応えられるような言葉を。
「俺、は…」
_その瞬間、頭を不意によぎったのは、
誰よりも眩しい“君”の事でした_
「俺は、みこちゃんが好きだよ。」
その時のひまちゃんの顔と言ったら、
もう表現のしようがないくらいに面白くて、
俺は自分が何を言ったのかも忘れて笑っていた。
「…何、その顔…w」
「え、あ、いや、だって、え…?」
動揺を隠す気もないひまちゃんは、
心底素直で可愛らしい子だなと思う。
まぁもちろん、みこちゃん程では無いけれど。
「…お前、ガチで言ってる?」
「うん、もちろん。」
言ってしまったものは仕方がないので、
もういっそのこと開き直ってしまおう。
「俺は出会った時から今日までずっと…
みこちゃんのことだけが大好きだよ?」
…感情が一周したのか、呆れた顔をするひまちゃん。
「…お前…みことのこと好きなのは知ってたけど、
その…そういう意味でだとは思ってなかったわ。」
「あははw」
…さて、俺は堂々と言ってのけたのだから、
同じことをして貰う権利がありますよね?
「…で?」
「…で?って…何?」
「なっちゃんの話は、どこに行ったのかな?w」
あぁ、こんなに焦っちゃって。
自分の好きなものを堂々と言える強さくらい、
ひまちゃんなら持っているだろうになぁ。
「…俺のことは、ほら、さ?」
「ここで誤魔化すのは、
ちょっとずるいんじゃないかなぁ?」
「うっ…」
ひまちゃんは誰よりも仲間思いだから、
仲間に嘘をつくことが物凄く苦手だ。
俺のことを仲間だと思ってくれているからこそ、
こうやって聞けばきっと誤魔化すことは出来ない。
…ほら。
「…俺は、さ…」
「うん。」
「俺は…」
「分かんないんだ、自分の気持ちが。」
それは、予想の斜め上の答えだった。
「…分かんないって、どゆこと?」
思わず聞き返した俺に、
ひまちゃんは真っ直ぐな目をして言葉を紡ぐ。
「…俺といるまは、ダチだから…
そうじゃない…その…“好き”ってのが、
俺にはよく分かんないままなんだ。」
「…」
俺には、その気持ちこそ分からない。
俺とみこちゃんは仲間で、友人で、
みこちゃんからした俺も多分、そう見えてる筈で。
「すちみたいに…そうやって“好き”なんだって、
堂々と言えるのはなんかこう…凄いと思う。
でも俺はそうは言えないし、
それにいるまだって…そうは言わないと思うから。」
…相手の気持ちを考えて、思いやって、
自分の気持ちが何処にあるのかを見失う。
人間の愚かな性だとそう思うのに、
否定出来ないのは何故だろうか。
「俺は…今のいるまとの関係が好きなんだ。
くだらないことで笑ったり、怒ったりしてさ。
あいつ、俺が落ち込んでたらすぐ気付いてくれて、
ずっと話聞いてくれたりするんだぜ?
マジで優しくて…めちゃめちゃ気ぃ合うし、
一緒にいてホントに楽しいから、だから、俺…」
「そんなに簡単に…“好き”だとか、
そんな言葉に当てはめたく、ないんだ。」
馬鹿かな、と自嘲的に笑うひまちゃんに、
馬鹿だよ、と返せたら良いのに。
俺は、言えない。
まるでかつての青春時代をやり直しているかの様に
無邪気に自分の気持ちを言葉にする姿は、
あまりにも眩しくて、きらきらと輝いて見えるから…
「…いいなぁ…」
「…え?」
思わず溢れた独り言。
聞き返してきたひまちゃんに、笑ってみせる。
「んーんw」
俺も今は…思ったことをただ、言葉にしよう。
「…ひまちゃんはさ、それで良いんじゃない?」
またおかしな顔をしているひまちゃんを見て、
俺はもう一度小さく笑う。
「俺には俺の気持ちがあるように、
ひまちゃんにはひまちゃんの気持ちがあるでしょ?
ひまちゃんといるまちゃんの関係性は、
2人しか分からないことだと思うしさ。
ひまちゃんがそう思うなら、
今はそれで良いんだよ、きっと。」
…俺に言えたことでもないくせに、
上から目線で教えるなんて、俺こそ馬鹿だけど。
「…そっか、そう、だな…。」
そんな風に、納得した顔なんてしないでよ。
…俺のみこちゃんへの気持ちは、
最初は“憧れ”から始まったってこと、
ひまちゃんのおかげで思い出せたんだから_
「ひまちゃん、ありがとう。」
「…すち、」
俺の唐突なお礼に、何かひまちゃんが言おうとして…
ガチャ。パタン。
「ただいま〜」
「すちくんお待たせ!」
図ったのかと思う程のタイミングで、
2人が帰ってきた。
「あ…おぅ、おかえり。」
「ほい。」
「ありがと。」
当たり前のようにひまちゃんの分まで買ってきて、
当たり前のように渡すいるまちゃん。
それに違和感を感じることもなく、
かといって感謝の気持ちを忘れることもない、
自然な素振りのひまちゃん。
彼らの関係に口を出すつもりはないし、
今日の会話によってひまちゃんの気持ちは、
多分ある程度知ることが出来たから良いけれど。
「…おかえり、みこちゃん。」
「ただいま、すちくん!」
俺の言葉に笑顔で答えてくれる、俺の大好きな人。
けれど、こんなに優しいみこちゃんにも、
聞けていないことがある。
「…あれ、みこちゃん…顔、赤くない?w」
笑いながら、ふざけながら。
いつも通りに、“すち”らしく。
「…うぇ…!?そ、そんなことないよ…!?」
「そっか、気のせいかな?w」
「うんうん、気のせい気のせい!」
「そっかぁ…w」
なんでもないことのように、話すこの瞬間。
みこちゃんの瞳が向かうその先にいる存在に、
俺はだいぶ前から気付いている。
「…またみこちゃんに何かしたのかな?
いるまちゃん、君は本当に…」
「罪深い人だね。」
みこちゃんに出会って、世界が変わった。
シクフォニのみんなに出会って、
俺の人生は色鮮やかに豊かになった。
だからいるまちゃんは大事な仲間であり、
人として尊敬している存在でもある。
でも、みこちゃんだけは、絶対に譲れない。
何に代えてもみこちゃんの“特別”になるのだと、
俺は過去の自分に誓ったのだから。
叶うことならひまちゃんの想いが形になって、
いるまちゃんに向くことを願って…
みこちゃんの想いが形になる前に、
俺を見てくれることを願って_
_俺は今日も、君に笑いかけるよ。