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織姫と彦星
織姫と彦星、一度は聞いたことがあるだろう。
七夕という行事を通して一年に一回会うことができるという恋人同士。
なぜ一年しか会えないか、諸説はあるが恋に熱を注ぎすぎて仕事が疎かになってしまった罰、
というのを聞いたことがある。そんなことを思っていた。
俺は28年間、誰の特別にもなれず特別な存在もないただの男。
顔も、知力も、体力も人並みで何をしても結果は平均をそのままとったただの男。
ただ、我ながら人々を観察する観察眼には恵まれているのか推理や人の性格を見透かすのは昔から得意であった。
仕事はフリーで記者をしている。以前は新聞社に勤めていたが、近年若者の新聞離れを経て今では芸能人のスクープを目当てにテレビ局周辺を散歩するかのように歩いている。
そこで手に入れた情報を大手ネットニュース関連の会社へ売りつける。そんなのが日常。
今日は七月七日、世間では七夕祭りが行われている。だが、あいにく今日は曇っていて星どころか月すらも見えない。こんなんでは夜には雨が降るだろう。
雨の中迎えた七夕は、街中どころかテレビでさえも話題に出さないほど静かなものだった。
雨音で埋め尽くされた道路をバイク集団が掻き鳴らすかのように通り、音が響き渡る。
街灯がぼんやりと光る、窓は結露していて、夏とは思えないほど暑さを感じなかった。
ブーブーー ブーブーー
ポケットに入れていた携帯電話がバイブ音を鳴らしながら光っている。電話に出ようとしたが
なんと電話の相手は非通知だった。俺には仲の良かった同級生もいなければかけてきそうな同僚すらいない。唯一高校生時代仲の良かった友人、母、父は電話帳に入っているため非通知だなんて
社会人一年目で迷惑メールに出たこと以来約5年ぶりの出来事だった。
本当は出たくないが後々面倒になることだと嫌なので恐る恐る出てみた。
「、、はい」
「こちら、ひたちなか総合病院です。」
、、ひたちなか?
ひたちなかは茨城県、俺の地元であり、実家のある場所である。
話しているのは女性か。なんだ落ち着きのなく少し息が切れているように伺える。
「松田優斗さんで、、お間違い無いですか、?」
「、、はい」
「松田昌子さんが街から搬送され、今こちらに入院しています。」
松田昌子とは俺の母親である。俺は小さい頃に母を亡くしているため正確にいうと血は繋がっていない。だが、元の母との覚えている思い出など片手の指で数えられる程度。今の母は元の母と友人関係であり、何かと俺のことを気にかけてくれた。高校生活のほぼ全てに弁当を持たせていて、器用なことに冷凍食品が入っていることは一度もなく、家事はなんなくこなしていて人柄が良いと有名なまであった。 大学のため上京し一人暮らしをする際も東京まで送っていくだなんていって。それはなんだか申し訳ないので断ったが、母は心配なのか月に一回は食料等生活に必要なものを送ってきてくれた。
だが、最近はものが送られてこないので、やっと心配されることはなくなったと少し安心していたところだった。
まさかこんなことだったとは。母は風邪で寝込むことなどそうそうなかったため、いつまでも元気なのだろうと、どこか思い込んでいた自分に腹が立った。
そんなことを思いながら俺は母の入院するひたちなか総合病院へと向かった。
第二話へ続く