コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
病院につくと、1人の看護師が俺の前にやってくる。電話に出ていた女性だろうか。
20代前半でメイクや髪型は手の混んでいない様子、マスクをしているからか表情が近くに来るまでわからない。
「あの、母の病室は、、」
そう言おうとしたが、女性は俺の腕を掴み
「早く! 早く!」
と早歩きでどこかへ向かう。口より手が先に出るタイプか、なんて思っていたら部屋番号の下に
松田昌子と書かれた病室の前に立っていた。
女性は腕から手を外し、ドアを開けようとしたが
「まて」
と俺も口より先に、、いや口と同時に女性の手を握った。
女性は驚いた様子で、え?と言わんばかりの表情だ。
俺もこんなこと初めてだから少し気が動転してつい
「開けるな、もういいから1人にしてください」
女性は不思議なものを見るかのような目をしながらその場を立ち去った。
午後11時、あたりは真っ暗。そして大雨。ザーザー雨と風が吹き荒れている。
廊下には薄暗い電気が設置されているだけであり、あまり人は見られない。
そんな暗闇に身を隠すかのように影を消す。ドアノブに手こそかけるが開けるまでの動作ができない。なぜかと言うと、母とは上京した時ぶりなのだ。連絡先こそ知っているのにずっと連絡をよこさない、親孝行のかけらもないこんな息子、ましては血も繋がっていないし。
それに、今はフリーで記者をしていて人の不祥事で生きているだなんて言ったら、もう非の打ちどころでしか無い。でも、これで見舞いにすら来なければもう悪でしかない。
決心して、ドアノブを勢いよく開けた。すると目に映る情報全てに衝撃を受けた。
母は信じられないほど痩せ細っていた。母は筋力があり健気な様子が頭に浮かんでいたので、
本当に母なのか、目を疑った。髪は白髪混じりで、艶を失っていた。しわも目立っていて。頭に包帯が巻かれているから頭を打ったのだろうか。ベットで横になる母は俺に気づいていないようだ。
このまま、話しかけない方がいいのだろうか。自分のことですでに気が落ちている母に俺を見られたら何だかまずい気がした。でも、その思いとは逆に
「、、、あの」
久しぶりに声を出したので多少裏返る、思ったより声が震えている。
母はこちらを見ていた。
「どなたですか?」だなんて言われたらどう言った顔をすればいいんだ。
大学生からメガネに伸びた前髪ヘアを突き通しているため風貌はさほど変わりはないだろう。
だが最近は食事を忘れて記事に取り掛かっていたので、健康とは言えない。もう母が思っていた俺ではなくなっているだろう。連絡もよこさない親不孝な息子がいきなり現れて母さんだなんて馴れ馴れしい。
母は俺のことを数秒間見つめて
「優斗、ご飯抜いてるでしょ。ダメよまだ若いのに。」
そう言ってあの優しい瞳で微笑んだ。
思いもよらなかった。俺を気遣うだなんて。
またあの瞳で見てもらえるだなんて。
また僕を見て笑ってくれるだなんて。
あなたの優しさをこれほどまでに流してきた俺を。
涙が浮かんできたが、泣くのは違う。
そうして、母と再会をした。
第三話へ続く