兄の家に来てから穏やかな数日が過ぎた
今は甥っ子のハルをベビーカーに入れ、弘美さんと私は私たちの住む高層ビルに、隣接している大型ショッピングモールで遅めのランチをとっていた
吹き抜けが気持ち良い弘美さんがよくハル君と、ランチをするという3階のビストロレストランは
アジアンチックなラタンとアイアンフレームの、お洒落な家具が並び、壁にはカラフルな、抽象画が掛けられているお店だった
広めの通路を弘美さんはマザーズバッグと、両肩に沢山の紙袋を抱え、私はハルのベビーカーを押してその後に続いた
真っ白のソファー席に腰かけ弘美さんが言った
「ふぅ~!これで大体はあなたの身の回りの物は揃ったかしら、部屋着が3パターンと外出着が4パターンでしょ?それにあなたのシャンプーと化粧品と・・・あ~・・・やっぱりあのパンプス買うべきよ!とっても似合ってたもの! 」
私は涼しい店内に入ったからハルの帽子を取ってやった、ベビーカーのかごからお茶が入った哺乳瓶を取り出しハルにあたえる
「こんなに買ってもらわなくてもよかったのに・・・本当に着替えなんて数枚でいいのよ、それにあんな高い化粧品は・・・・」
弘美がメニューを見ながら憤慨して言った
「あなたは着のみ着のままで財布も持たず、逃げ出してきたんですものまだ足りないわ」
私は申し訳なく思って本当の事を、うつむいて親指をいじいじしながら、言いにくい事を言った
「その・・・逃げ出してきたわけじゃないの・・・正確に言うと・・・家から放りだされたのよ・・・多分きっとあの人私がずっと玄関の外で待ってると思っていたんじゃないかしら・・また家に入れてもらえるまで、彼なりの・・・躾っていうか・・・ 」
グラスの水を飲む弘美さんの手が止まった
彼女がこれほどショックを受けた、顔を見るのは初めてだった、でもすぐに彼女は冷静になった
「あなたの背骨を折ってさんざん痛めつけた後に、下着も履かさずに外に放りだすことを、彼は躾と思っているって事ね?今までそんなことしょっちゅうあったの? 」
状況を頭にインプットするように彼女は言った
途端に恥入る気持ちが体を駆け巡る、躾なんてものは物事を分かっていない幼い子供にするものだ
夫に躾けられて暴力を振るわれていた、なんて事を誰かに話したら、軽蔑されるに違いない
しかし義理の姉は他人の事を批判したり、干渉したりするような人ではなかった、聞き上手で鋭いユーモアのセンスを持っていた
彼女といると心が落ち着いた、誰かに会えなくなったり頼れなくなったりしても、それを埋め合わせるように、人生にはその時々の自分にふさわしい人が現れてくるものだ
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