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「これでもうこの階段で誰かが犠牲になることはありませんね」
御影さんは淡々とした口調でそう言って歩いて行く。
御影さんに聞きたいことなんて山程ある。
でも聞いてはいけないような気がする。
「何です、聞きたいけど聞けない…みたいな顔して」
初めて会った時からずっと変わらない、人当たりのいい笑顔。
だからこそ、垣間見えた、”管理者になった瞬間”が怖かった。
御影さんには人間の気持ちなんかお見通しなのだろうか。
「あ、給食の時間ですね」
そんなのあるのか。
「何十年かに一度、肆時間目が終わった後に配給されるんですよね」
また心の中を読まれた。
御影さんは、さっき、あれだけ進めなかった階段を降りていく。
「行かないんですか?」
「行…きます」
深く考えるのはやめよう。
御影さんだって、怪異に近い人だから。
それでも、御影さんを離しきれず、諦めきれない自分がどこかにいた。
「給食、冷めますよ」
「え?」
御影さんは、何事もなかったように給食を受け取る。
さっき、一つの怪談の不始末を片していた人とは思えないほど、いつも通りだった。
「……御影さん」
「はい?」
「怖くないんですか」
古びたトレーを持つ手がかすかに揺れた。
「何がです?」
「さっきの……」
御影さんは少し考えるように首を傾げる。
「怖い、ですか」
「……」
「そうですね…?」
少し間を置いて。
にっこりと、いつもの、人当たりのいい笑顔を浮かべた。
「昔は怖いと思えていたんですけどね」
御影さんは、綺麗だ。
あんな、普通の人間の手には負えないような怪異を始末した後も、ちゃんといただきますを言う。
本気を出せばきっとあの階段も最初から祓えたのではないか。
4番が言っていた『また守れない』ってセリフ。
さっき、シノノメさんに会う前言っていた、学生時代の話。
御影さんはもともと人間だったのだろうか。
誰かを、守っていたのだろうか。
聞いてもはぐらかされるって分かってる。
だから聞かないけれど、たった一人の人間なりに、御影さんを知りたい。
怪異に関わるのは良くないと言われたばかりだけど、 聞きたいことがたくさんあった。
御影さんは、黙々と給食を食べていた。
しばらくして。
「……昔の話が気になりますか?」
「え」
「顔に出ていますよ」
まただ。
この人は、本当に人のことをよく見ている。
「…すみません」
「別に謝らなくてもいいですよ?」
御影さんは、少しだけ窓の外を見る。
「昔は、私もあなたと同じでした」
「…同じ?」
「怪異を怖がって、逃げて。それでも誰かを助けたいと思っていた。だから、4番が言った言葉は、あながち間違いじゃない。」
言葉を舌でなぞるようにゆっくり紡ぐ。
これまで散々はぐらかしたくせに、するりと情報が出てきた。
「でもね、人間さん。」
――守れなかったことがない人間なんて、いるのでしょうか?
御影さんは最後に特大の爆弾を落とした。
それから、全く大したことじゃなかったって言うみたいに、少しいたずらっぽく笑った。
#一次創作
柘榴とAI

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