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──二月。
放課後の校庭には、まだ冬の冷たい風が吹いていた。
けれど、校舎の窓から差し込む夕陽が、ふたりの影を長く伸ばしている。
図書室での時間も、最近は少し落ち着いてきた。
受験が終わり、先輩の肩の力が抜けたことで、ふたりでいる空気は穏やかだった。
今日は帰り道。
並んで歩く廊下の音が、静かに響く。
先輩がふと、真剣な顔で私を見た。
「紬、ちょっといいか?」
「はい……」
校庭に出ると、冬の空気に混じった夕陽が、赤く校舎を染めていた。
先輩は少しだけ距離を詰めて立ち止まり、深呼吸をした。
「俺ら、もう恋人みたいなもんだけど…」
「え?」
「だから、改めて言わせてほしい」
その声は、真っ直ぐで、震えてはいないけれど温かくて。
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「紬……俺と、付き合ってください」
思わず目が見開かれる。
今まで、何気ない放課後や夏祭り、文化祭の時間。
全部、ふたりで重ねてきた瞬間が一気に胸に流れ込む。
「……はい」
声が自然に出た。
笑顔がこぼれ、心臓が跳ねた。
「やった」
先輩も笑う。
ぎこちないけど、あたたかい笑顔。
夕陽の中、ふたりの影が寄り添うように重なった。
冷たい冬の空気が、二人の心をじんわり温める。
長かったけれど、やっと届いた想い。
一年間の小さな積み重ねが、静かに、確かに形になった瞬間だった。