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新学期が始まってはじめての週末は「公用語デー」だった。
お帰りなさいの日本語が飛んできた。健太の答えた「グッドイーブニング」が浮いていた。
ツヨシ、ミエ、キヨシはテニスの試合やラケットの話を続けている。週末働く健太と違い、彼らとその友達は土・日は近所のコートで一日を過ごしている。話に入れず、健太は自分の部屋に進んだ。
電気をつけると、ベッドの上に白い封筒の束が輪ゴムでまとめてあるのが見えた。輪ゴムを外して一つずつ封を破ると、それらは全て、身に覚えのない駐車違反の罰金請求書だった。マレナ一族が健太の名の元に借りた車で違法駐車したツケだった。
レンタカーを借りるサインを書いたという一つの事実のために、どうしてここまで責任を取らねばならないのだろう。
請求書を一枚ずつ見ると、間近に迫った支払い期日が書いてあった。中には明日までのものもある。
開けっ放しのドアに、キヨシがうなだれて立っていた。
「ごめんなさい。俺がしっかりしなかったために、ごめんなさい」
これが何だか知ってるな、と健太は封筒の束を鷲づかみした。
「せめて罰金、肩代わりさせてください」という言葉が聴こえてきた気がした。しかしそれは健太の空耳だった。代わりにキヨシは近況を話し出した。日本料理屋でバイトを始めたこと、来年からカレッジに進学する予定なこと、今は仕事と勉強に精一杯なので、ホームスティを探す暇もないこと。
「ツヨシさん達と仲良くしないとならないんです。健太さんなら、分かってくれますよね」とキヨシは言った「今ここを出て行くようにと言われると、困るんです」
健太はベッドから立つと、部屋を出て行った。