テラーノベル
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「……よう」
「お……よう」
「ほら、おはよう。朝だから起きなさいって」
朝の6時。1日の始まりを告げるのは、
遮光カーテンの隙間から容赦なく漏れ出てくる白っぽい光と、僕の耳元を容赦なく叩く、低くて少しハスキーな雑音だ。
正直に言って、カーテンから光が差し込んでくるのは別にいい。
むしろ、それだけなら頭がじんわりと覚醒していくような、心地よい目覚めになっていたはずだと思う。
だが、最大にして最悪の問題は、その後に続くあの雑音だ。
まだまだ布団の温もりに包まれて眠っていたいのに、コイツ……お兄ちゃんのせいで、僕の安眠はいつも無惨に引き裂かれる。声のボリュームが大きくて、毎朝毎朝、本当に近所迷惑極まりない。
僕が心の中で悪態をついていると、ベッドのきしむ音と共に、お兄ちゃんがすぐ目の前までやってきた。
寝起きの目を薄く開けて見上げると、そこには心底面倒くさそうな、眉間にシワを寄せたお兄ちゃんの顔がある。
「あのなあ……お前さ、俺だってもう高校生なんだぞ? いつまでもこうやって、毎朝毎朝優しく起こしてやれるわけねえんだよ」
あぁ……本当に、心底五月蝿い。
口を開けば小言ばかりで、耳が痛くなる。
でも――不思議と、悪い気はしないのだ。
むしろ……いや、まあ、僕のこれからの生活のことを、お兄ちゃんなりに真剣に考えてくれているのだとしたら、ほんの少しだけ、
嬉しいと思わなくもないけれど。
「あんまりいつまでも寝てると、お母さんに朝ご飯片付けられてなくなるぞ。ほら、はやく着替えてリビングに起きておいで」
「あ、それと、今日の着替えはそこの机の上に置いといたからな」
お兄ちゃんはそれだけを言い残すと、僕の髪の毛がぐちゃぐちゃになって原型を留めなくなるほど、大きな手で手荒に、だけど愛おしそうに頭を撫でて、足早に部屋を出て行ってしまった。
パタン、とドアが閉まる。
お兄ちゃんの手の温もりが残る頭にそっと触れながら、僕はベッドの中で小さく息を吐いた。
(……でも、悪くはないな。こうやって、毎朝起きられないフリをするのも)
そんなことを思いながら、僕はのそのそと起き上がって机へと向かう。そこに用意されていた服を見て、思わずため息が出た。
(……それにしても、あいつの服のセンスは本当に壊滅的だな。だって、毎日毎日、パーカーしか選ばないのだから。僕に選択権はないのだろうか)
文句を言いつつも、お兄ちゃんが選んでくれたネイビーのパーカーに袖を通す。
5分ほどで着替えを終えた僕は、ドアを開けてリビングへと向かった。
リビングの扉を少しだけ開けたとき、中の会話が耳に飛び込んできた。
そこでは、頭をきらきらとした金髪に染め上げて、耳にピアスをバチバチに光らせているヤンキーみたいなお兄ちゃんが、お母さんに頭を撫でられながら、困ったような顔でクレームを入れられている最中だった。
「アンタさあ、弟に優しくしすぎ。そんなに甘やかしてばっかりで、あんたが春から上京して一人暮らしを始めたら、あの子どうすんのよ」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てて跳ね上がった。
あぁ……聞きたくない。聞きたくない。
僕のお兄ちゃんが、僕の手の届かない遠いところへ行っちゃうなんて、そんなこと、知りたくない。知りたくない。考えたくもない。
お兄ちゃんは、僕のものなのに。
僕の朝を邪魔して、僕の頭をぐちゃぐちゃにして、僕にダサいパーカーを選ぶのは、お兄ちゃんだけの特権なのに。
それを手放して、東京なんていう知らない街へ行ってしまうというのか。
リビングのドアノブを握りしめたまま、僕の胸の中に、どす黒くて冷たい感情が、じわじわと広がっていく。
いっそ……。
いっそ、お兄ちゃんがどこか大怪我でもしてしまえばいいのに。
そうすれば、遠い東京になんて行けなくなる。
ずっとこの家で、僕の目の届くベッドの上で、僕に看病されながら、僕のためだけに生きてくれるのに。
1話終了!
読んでくださった方お疲れ様でした〜!
次もがんばって書きますね!!
コメント
1件
第2話、読みました!弟くんの「起こされるフリ」にほっこりしたかと思ったら、最後の「怪我してしまえばいい」という黒い感情でグッと心掴まれました。お兄ちゃんの壊滅的な服装センス(笑)と無自覚な甘やかしが、弟の依存と独占欲をじわじわ強めてる感じが怖いけど面白い。上京がこの関係性をどう壊すのか、続きが気になります!