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バドミントン部の練習が終わるころ、外はすっかり夕焼け色に染まっていた。
「ふぅー、疲れたぁ!」
ラケットを軽く振ってストレッチをしていた柚葉は、体育館の隅でスマホを手にした。
メッセージアプリには花からの軽いメッセージが届いている。
《澪先輩、やっぱり陽先輩のこと好きそうだよね〜》
(ふぅん……そっか)
どこか遠い話を聞くような気持ちで、柚葉は画面を閉じた。
自分とは関係ないはず。そう思っていた。なのに、昼休みに見た光景がふと脳裏をよぎる。
廊下で陽が澪に真っすぐ言葉をぶつけていたあの場面。
表情は見えなかったけど、声のトーンに迷いはなかった。
(……なんか、変な感じだった)
別に、悔しいとかじゃない。
悲しいわけでも、イライラしたわけでもない。
ただ、心のどこかに、小さな石がポツンと落ちたような、そんな感覚。
「陽先輩って、ちょっと不思議な人だな」
そうつぶやくと、自分でも思わず笑ってしまった。
何が不思議なのか、よくわからない。ただ、なんとなく、気になる。
教室で話したことなんて片手で数えるほど。
それでも名前を覚えてくれていたし、目が合うとちゃんと笑ってくれる。
そんなの、先輩なら普通のことなのかもしれないけど——
「……気になる、かぁ。そういうのって“好き”とは違うんだよね?」
小さく呟いた言葉が、夕暮れに溶けていく。
自分の中に芽生えたこの感情に、まだ名前はついていなかった。