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今日も今日とて💚💙
第一話 📕読書日和〜夜をほどく
亮平 side
今日も今日とて、夜は静かに裏返る。
指先で頁の端をつまむ。
ぱらり、と小さな音。
夜が一枚、静かに裏返る。
すぐ横の床に転がる愛おしい人の影が、
待ちくたびれてコクリコクリと壁にお辞儀する。
頬杖をついたまま、
ウトウトと睡魔と戦い…………負けた。
「ふふっ……なんて可愛いの」
そっとブランケットを上から掛ける。
再び、指先で頁をつまんだ。
文字を追う視線の端で、ブランケットがわずかに上下する。 その規則正しさに、胸の奥のざわめきがほどけていく。
ぱらり。
もう一枚、夜が静かに裏返る。
物語の終わりにしおりを挟むころ、窓の向こうは一段と静けさを増し、夜が更けていく。
本を閉じ、灯りを落とす。
床に近いところで、かすかな体温。
触れない距離に腰を下ろし、同じ朝を待った。
ブランケットの端を整えたとき、翔太の腕の下に一冊の本があるのに気づいた。
角が少しだけ擦れた、見慣れない装丁。
そっと指先で引き出す。
開かないように抱え込まれていた表紙が、体温を残して離れた。
——日記。
めくるつもりはなかったのに、頁の隙間から、柔らかな文字がひとつだけ覗く。
🗒️『今日も、亮平の隣で夜がほどけた』
本を少しだけ開き、翔太のそばに置いた。
「……同じ時間を過ごしてたんだね」
返事はない。
けれど、ブランケットの下で、指先がわずかに動いた。
ぱらり。
夜がもう一枚、やさしく裏返る。
——待たせていたんじゃない。
同じ夜を、隣でほどいてくれていた。
元の位置に日記を戻した。
大事そうにグッと力を込め本を抱えた翔太の呼吸に、そっと自分の呼吸を重ねる。
触れないつもりで、手の甲に指先だけを重ねた。
すぐに離すつもりだったのに、翔太の指がゆっくり絡んでくる。
眠ったままの、正直な反応。
胸の奥がやわらかく満ちていく。
ブランケットの端を持ち上げ、起こさないように隣へ身を滑らせた。
近すぎない距離で止まる。けれど体温の輪郭は、はっきり分かる。
小さな寝息がひとつ。
その拍に合わせるように、翔太の肩がわずかにこちらへ傾いた。
逃げ場を探すみたいに、額が胸元に触れる。
思わず息を止める。
触れない距離は、そのままでは保てなかった。
ブランケットの内側で、そっと空間をつくる。
起こさないように腕を背に添える。
“抱いた”というより、寄ってきた温度を受け止めただけ。
「リョウヘイ――」
「……ここにいるよ」
返事はない。
額にかかる髪を払い、触れるか触れないかの距離で口づけを落とした。くすぐったそうに肩を窄めた翔太は、わずかに口角が上がった。
俺のシャツの裾を掴んで、膝を抱えるように小さく収まった。
「かわいい」
静かなリビングにふたりの呼吸が合わさった。
速さが揃っていくほど、夜の端がほどけて、静かに結び直されていく。
しばらく、そのまま動かなかった。
それでも腕の中の重さは確かで、背に回した手のひらをわずかに深くした。
逃げ道を残すみたいに、でも離さない。
胸のすぐ下で整う呼吸に、自分の鼓動を重ねていく。
「……一緒にほどいた夜だね」
返事はない。
けれど、指はほどけず、体温は静かに寄り添い続ける。
ブランケットの内側で、ふたりの温度が同じ形に落ち着いた。
俺は頬をそっと寄せ、起こさない距離のまま目を閉じる。
窓の向こうの青が、ゆっくりと濃くなる。
夜はほどけきり、今度は朝が、静かに結び直されていく。
——同じ時間を、同じ腕の中で。
翔太をそのまま、抱いたまま眠りに落ちた。
コメント
6件
健気に待ってる💙が可愛くて、好き。💚の邪魔しない奥ゆかしさにキュンです