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◻︎美希に相談する
智之の髪を短く切った。
これで金髪と色がついていたところはもうない。
「さっぱりしたね?ごめんね、お母さんのせいだね」
「ううん、わりと気に入ってたんだ、でも…」
泣きそうな顔をする智之。
「ねぇ、智之、お母さん、オシャレで綺麗なお母さんじゃなくなってもいい?」
「お母さんはずっとお母さんだよ」
___ずっと…
私は何をしていたんだろう?
この子にとってはずっと、私は母親なのに。
昨日、未希に言われたことを思い出した。
___シングルみたいなもんでしょ
___今は疲れ果ててると思うから
初めて会ったのに、すべて見透かされてるような気がした。
そして、そのおかげで私は、素直にご飯を美味しいと感じることができたし、泣くことができてぐっすり眠れたと思う。
これからどうすればいいか、考えないといけない時がきたんだとも思った。
「学校まで送っていくね、先生にもお話があるし…」
「うん」
Tシャツとジーンズにサンダル、ほとんどメイクもせず、コンタクトではなくメガネで学校まで行く。
教室に行くと、もう3時間目が始まっていた。
「すみません、遅くなりました、木崎です」
「おはようございます、大丈夫でしたか?」
「えぇ、左手の小指の付け根あたりを骨折していまして、しばらくは体育もできませんし、不自由があるかと思いますが…」
「そうですか…智之くん、痛くてできないことがあったら、先生に言ってね」
「…はい」
イジメを受けているかもしれないということは、まだ言わないでおくことにした。
その代わりに、言っておかないといけないことがある。
「みなさん、聞いてください。智之は、一昨日、階段から落ちて骨を折る怪我をしました。左手は、痛くて動かすことができません。しばらくは、みんなにも迷惑をかけると思うけど、よろしくお願いします」
私は大きな声で、クラスのみんなにお願いをし、頭を下げた。
あちこちから、ヒソヒソと声がする。
「まかせて、とも君のお母さん!みんなでとも君を手つだうから」
大きな声で立ち上がったのは翔太。
「そうだよ、荷物とか持ってあげるよ」
「給食も食べさせてあげる」
「それは、できるんじゃないの?」
「あ、そうか」
「掃除もみんなでやるよ」
私はクラスを一通り見渡した。
私がみんなを見ていますよと意味を込めて。
「お母さん、大丈夫だと思いますので…」
「そうですね、お友達が優しくて安心しました。ではこれで失礼します」
智之は自分の席についていた。
学校を出て、スマホの着歴に残る番号に電話をかけた。
「もしもし?昨日はお世話になりました、木崎です…」
電話の向こうの美希に、話を聞いてもらおうと思った。
『じゃあ、今度の日曜日、どう?食堂もお休みだし』
「いいですか?じゃあ、お昼過ぎに伺います」
『お待ちしてますね』
相談する前に、今の段階でするべきことがあった。
スマホで自分のブログを開いた。
このまえ[夫と2人でのランチ]と題した写真と、最近買った洋服のコーデをアップしたままになっていた。
いいねは、100と少し、でも反対も50ほどある。
その中に、熱心な私のファンだと言ってる人が1人いて、今回もコメントを書き込んでくれている。
[香織様、いつも美味しそうなランチですね。それを素敵な旦那さまと召し上がる午後、お庭のバラも飾られて、ドラマのような時間でうらやましいです…サチ]
[香織様、相変わらず、スタイルがいいですね。コーデは、ぜひお手本にさせてくださいね…サチ]
いつの頃からか、私を褒めるコメントを書き込んでくれて、今となってはこの人《サチ》のために写真をアップしているといってもいいくらいだ。
___でも、ごめんなさいね。今日で終わりにします。
ブログに、モデルの引退と閉鎖を告知する。
たいした仕事もしてないのに引退もなにもないのだけど、私なりのケジメだ。
それから、聡にLINEを送る。
「こんにちは。いままでお世話になりました。私はもうモデルを引退しますね。何か仕事が入ってた気がしたけど、別の人にお願いしてください」
ぴろろろろろろろろ🎶
電話が鳴った。
『ね、どういうこと?いきなり、辞めるってさ。俺とのことも終わりってこと?』
「どちらかといえば、あなたとのことをやめたいんだけどね。今までありがとうございました」
『ちぇっ!まぁいいわ、他にも女はいるしな』
ブツッと電話が切られた。
___わかってはいたつもりだったけど、こんなもんだったんだ…
いまさらながら、自分に呆れた。
こんな男のために、私は今まで何をしてたんだろう?
スマホを持った手の爪が気になった。
急いでネイルをオフしてもらいにお店に行き、その帰りに美容院で髪もショートカットにした。
帰ってきていつもの姿見に写る自分の姿を見る。
___あれ?思ったよりいいかも?
いろんなことがスッキリして、気持ちが軽くなってきたからか、こんな自分もそんなに悪くないと思えた。
あとは悩みの大元、夫のことだけだ。