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◻︎夫とのこれまでの経緯


日曜日の午後は、智之と2人でひまわり食堂へ行くことにした。


「智之、今日はこのまえのお礼もしたいから美味しいお菓子を作って行こうか?何がいいと思う?」

「お母さんが作るの?クッキーかな?マドレーヌかな?んー、なんでも美味しいよ」

「えー?なんでも?うーん、なんでもいいと言われると考えちゃうね」

「だって美味しいもん、僕はクッキーとマドレーヌ両方食べたい!」

「わかった、じゃあさ、両方作るから手伝ってくれる?」

「うん!わかった。翔太君にたくさん持っていこ」


左手のギブスは痛々しいけれど、本人はいたって元気でほっとする。

あれから毎日、学校での出来事を聞いてあげる時間もできた。


教室まで送って行って、クラスメイトに怪我のことを話した次の日から、智之を迎えに来てくれる友達がいた。

ゲンちゃんという子らしい。


「ゲンちゃんがね、ごめんねって言ってきた。だから、いいよって言ったよ。これは先生には内緒だよ、お母さんだけにおしえるんだからね」


どうやら、智之を階段で押したのは、そのゲンちゃんという子らしい。


「智之がそれでいいなら、お母さんもそれでいいよ」

「うん!」


おはようございますと、毎朝大きな声で智之を迎えに来るゲンちゃんは、ランドセル以外の持ち物を学校まで持って行ってくれるようになった。

彼なりの罪滅ぼしなのだろう。

これからは、智之のことを精一杯育てていこうと心に決めた。



オーブンから焼きたてのクッキーを出す。


「味見してもいい?」

「もちろん!」


サクッと口に頬張る智之の顔がほころんだ。


「うんまっ!この味だ、うんまっ!」


そういえば、家でお菓子なんて作ったのはとても久しぶりだと思い出した。


クッキーとマドレーヌをたくさん箱に詰める。

それから、庭に咲いているバラも持っていくことにした。

怪我をしないようにトゲを取って、ペーパーで包む。


「さぁ、行こうか?」

「うん!」



今日は食堂はお休みと聞いていたから、玄関から入る。


「ごめんください、木崎です」

「どうぞ、上がって上がって!翔太もいるよ」

「こんにちは、お邪魔します。あのこれ、皆さんでどうぞ」

「あら、手作り?美味しそうね。お茶いれるわね」


食堂には未希と翔太がいた。


「お母さん、僕、翔太君と遊んでていい?」

「もちろん、気をつけてね」


テーブルについた私に紅茶が出された。


「先日はありがとうございました。息子ばかりか、私のことまで気にかけていただきなんて言えばいいか…」


心の底からの感謝を伝える。


「あら、いいのよ。こういうのも何かの縁なんだから。それに、まだ話したいことがあったんでしょ?」


「はい、私はこんな性格なので、なかなか相談できる友達もいなくて…。あの一つ聞きたかったことがあるんですが」

「なぁに?」

「私のことを、シングルみたいなものだとか、疲れ果ててるとかおっしゃってましたけど、どうしてかな?って」


「あぁ、あれ?簡単よ。綾菜、あ、翔太の母親にね、聞いてたの、モデルやってブログもやっててと。いつも帰りも遅いって、とも君が言ってたし」

「ブログ、ですか?」

「そう、拝見したわよ。でもね、なんていうか…気を悪くしたらごめんなさいね…取り繕ってるようにしか見えなかったのよ。私は幸せですよって、アピールがすごかった。だから、これは本当は幸せじゃないんだなって感じたのよ」


お茶、冷めるわよと、勧めてくれる。

アップルティーのいい匂いが鼻をくすぐった。

こくこくと飲めて、爽やかに喉を潤していく。


「幸せじゃない、ですか?」

「そうよ、本当に幸せな人はわざわざあんな風に、幸せアピールしないと思うからね。まぁ、モデルやってるからあんなブログも必要なんだと思うけど」

「そうですね、でも見破られてたなんて…」

「悔しい?仕方ないわよ、私の方が人生長く生きてる分、見方も変わるからね。それにね、2人分のランチを並べていても、そこにご主人の気配がまるで感じられなかったの、どこが?と聞かれたら答えにくいけど。だから、ご主人は今は家にいないのかなって思った」


見事に見抜かれていた。


「なんだか悔しいですね、私はそんなことに必死にしがみついてて、息子のことも見えていなかったなんて、情けない」

「いいじゃないの、今はちがうでしょ?イキイキしてるもの、若返ったんじゃない?」

「そうですね、あれから色々やめたら自分の気持ちにも余裕ができました」

「あとは、ご主人のことだけね」

「…はい」


花瓶に活けられたバラの花が、ほのかに香った。


「そうだ、私からも質問ね。このバラ、よくブログの写真にもあったわよね?ご自分で育ててるの?」

「これですか?はい、趣味で庭に咲かせています」

「とても大切なバラ、でしょ?」

「…はい。結婚して家を建てた時に、主人が苗を買ってきて一緒に植えたんです。このバラがいつも咲いているようなあたたかい家にしようって」


家の中が散らかっても、庭に雑草が生えても、このバラだけは枯らさないように守り続けた。


「そうやって、ご主人がいないのに家庭というものを守ってきたのね、一人で」


___あ…ダメだ、そんなふうに言われたら


ずっと我慢してた感情が込み上げる。

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