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それから四人は山道を、今日の都らしき場所目指して歩いた。一時間ほど歩くと徐々に人の姿を見かける事が多くなり、二時間後四人は崩れかけた城壁のような場所にたどり着いた。多分元は城壁だったのだろうが、今はあちこちで土台まで崩れていて壁の体を成してはいない。
そこを抜けると、真っすぐに伸びた広い道があり、大勢の着物姿の人たちが行き交っていた。道端でむしろを広げて、いろんな物を売っている商人らしき男もたくさんいた。
彼らの服装は、テレビの時代劇で見る着物とはかなり違っていた。作りが雑で、帯ではなく太い縄で腰を結んでいる男女が多い。髪も紙で出来た紐みたいな物でざっくり後ろで結んでいるだけ。大人の女性もそんな感じだった。ちょん髷や日本髪に結いあげた人は見かけない。
とは言え、陽菜たちの服装は相当奇異に映るらしく、通り過ぎるこの時代の人たちは目を丸くしてじろじろ見つめていた。陽菜はTシャツ、ジーンズ、ジージャンにスニーカー。玄野と明雄はジーンズにジャージ、同じくスニーカー。特にフーちゃんの未来の銀色の服はひときわ人目を引いていた。
「とりあえず、この時代の着物を手に入れよう。上から一枚羽織っているだけでもマシだろう」
そう言った明雄は、例の金の小さな延べ板を手にして通りに並ぶ一軒の店に入り、四枚の薄い着物と何か妙な形の帽子のような物を買って来た。四人はガウンのように着物をそれぞれ上から羽織る。明雄はフーちゃんにその妙な帽子を渡した。
「君はこれを被ってなさい。この時代では君の髪の色は目立ち過ぎる」
それは麦わらで編んだ幅の広い円形の帽子で、真ん中の部分が上に向けて少しとがって盛り上がっている。つばに沿うように薄いレース状の布が垂れ下がっていて、フーちゃんが被ると彼女の顔がすっぽり周りを布で覆われて外から見えにくくなった。
さすが東大出だ、と陽菜は思った。確かにこれならすれ違ったぐらいではフーちゃんの珍しいルックスに気づく者はいないだろう。この時代の貴族などの身分の高い女性が外出の時に頭に被る物だと明雄は説明した。
それから四人は都の大通りをぶらぶらと歩いてみたが、江戸時代の街並みと違って飲食店や宿屋が全く見つからない。そもそも何かの商店らしい建物にも看板が全くない。明雄が言うには、平安時代の街並みは最大の都市、京の都においてもこんな物だったらしい。
数日間はここに滞在する羽目になるのだから、食事や寝泊りをどうしたらいいのか、これは明雄にも見当がつかなかった。道端で途方に暮れていると、交差している道の角から牛に引かせた豪華な飾りのついた車がこちらに向かって来た。いわゆる牛車という物らしい。
周りの通行人があわてた様子で道の端に寄る。どうやら誰か身分の高い人物が通るらしいから自分たちも道の端にどいた方がいい、と明雄が言うので、四人は近くの木の塀に背中を張り付けるようにして牛車をやり過ごそうとした。牛車が四人のすぐ目の前に来た時、急に突風が吹き、フーちゃんが被っていた帽子が飛ばされた。玄野が飛び上がってキャッチしてすぐフーちゃんに手渡したが、十秒ほどフーちゃんの流れるような長い金髪が丸見えになってしまった。
「停めよ」
牛車の中から老人のようなややしわがれた声が響き、牛車は陽菜たちのまん前で停止した。牛車の窓に耳をつけて何かを中の人物と話していた、武者風の男の一人が陽菜たちの方につかつかと歩み寄って来た。そしてフーちゃんの正面に立って、彼女に威張りくさった口調で命じる。
「そこな娘。その被りものを取って見せよ」
陽菜は一歩前に出て、ムカついた口調で言い返す。
「ちょっと、なによ、あんた。この子に手出す気ならただじゃおかないわよ」
「控えよ、無礼者!」
その武者は語気を強めてさらに言い募った。
「あの車の中のお方をどなたと心得る。畏れ多くも、先の帝であらせられる。お上の命に従わぬと申すか?」
それを聞いた明雄はとっさに他の三人の肩を力まかせに押して地面にひざまずかせた。不服そうに何かを言おうとする陽菜にそっと耳打ちする。
「シッ! あれは上皇だ。元天皇だ。言われた通りにしないと命が危ないぞ」
その武者はひざまずいたフーちゃんにさらに詰め寄った。
「娘、被りものを取ってお上に顔をお見せせよ」
明雄がうなずきながら目配せしたのを見て、フーちゃんは帽子を脱いで金色の髪を牛車の中の人物の目にさらした。御簾に遮られてよく見えないが、牛車の中の人物はフーちゃんに直接声をかけて来た。
「娘、直答を許す。都に住まう者か?」
「い、いえ」
フーちゃんは当惑しながらも、驚くほどの機転の効いた言葉で話を取り繕った。
「さきほど都にたどり着いたばかりでございます」
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