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大きな振り子時計が3時を示すと、ボーン、ボーンと重たい音がこの家を埋める。その音にリビングの机に向かっている全員が反応を示し、ある者は緊張したように背筋を伸ばし、ある者はうたた寝から目を覚まし、顔を軽く叩いた。そういった者たちを見回すと、一人の人間が小さく頷いた。
「まずは白昼夢への加入、感謝する。ボスとして、君たちを快く歓迎しよう。オレは末井 奏叶(まつい かなとも)。ここでは情報屋としているつもりだが、普段は高校で国語の教師をしている。よろしく頼む。」
奏叶と名乗る人間は、笑わず淡々と言葉を紡ぎ続ける。赤と青のオッドアイはくすんでおり、左の横髪だけが伸びて動きとともに揺れる。彼を見る者たちは皆口を閉じており、その場に張り詰めた空気が漂っている。
奏叶 「じゃあ次、誰か。」
ふ、と息をついた奏叶はそう言って自席に座った。このような雰囲気で、すぐに声をあげられる人は早々いないだろう。少し経ってから、奏叶の隣に座っていた男がゆっくりと手を上げた。きれいな肌に真っ黒な髪、そして長身。明らかに女から好かれそうな雰囲気のその男からは、おちゃらけたような声が発せられた。
「えっと…皆出なそうだし、時計回りでいっちゃうな。俺は古宮 藍(ふるみや らん)。戦闘と処理を担当する予定!学校では生物の先生やってるから、よろしくな〜。あ、ちなみにこいつの兄。」
そう言って隣に座っている男を指差すと、
「…人のこと指差すなよ、兄貴。」
と、ジトッとした目で藍を見る。「あ、わりぃ!」と軽く謝ると、男は俯いてため息を付いた。それに合わせて真っ白な髪が揺れ、こちらも女にモテそうな外見だ。
蓮 「…俺は古宮 蓮(ふるみや れん) 。大学二年。今は医学を学んでる。俺は基本戦闘員として動くから、よろしく。」
そう言った蓮は最後、ペコリと静かに頭を下げた。隣の藍がニカッと笑って蓮の頭をワシャワシャと撫でた。「やめろ。」と言う蓮はまんざらでもない顔。その二人を次の人が微笑ましく見て、「んじゃ、次は僕だな〜。」と声を上げた。綺麗な顔立ちには、つけているイヤリングがよく似合う。
「華島虎空。基本近距離の援助をさせてもらう予定。高校2年生。いつも龍と一緒にいると思うから、よろしく。…龍になにかしようもんなら、消すからな?」
龍 「馬鹿、誤解されるでしょ。」
龍と呼ばれた男が、隣で虎空を制止すると、虎空はえへへ、と笑った。龍はそれを見て、緊張したように話し始める。黒い長髪から左耳のイヤリングが覗き、白い白衣を羽織っている。
龍 「えっと…花月龍、です。戦闘員に着いていって、その場での手当を担当させていただきます。虎空とは同い年で、幼なじみです。よろしくお願いします。」
言い終わった龍はぺこりと会釈をした。奏叶はそれを見て、「よし。」と呟いた。
奏叶 「全員自己紹介が終わった…」
虎空 「…なぁボス〜。」
と、突然奏叶の声を遮り、虎空が頬杖を着いて口を開いた。全員が一斉にそちらを向く。
虎空 「さっきまで気づかなかったんだけどさ、…ここにちっちぇえのがピョンピョンしてるんだけど。」
奏叶 「…は、ピョンピョン…?」
奏叶は虎空の言葉を信じられず、眉間に皺を寄せている。虎空が指を差した方を見ると、確かに小さい女の子がピョンピョンと飛び跳ねていた。今皆が座っている机は脚が長く座席の高い物のため、誰にも気づかれず飛ばされたのだ。ピンク色の髪のポニーテールとそこに着いた大きなリボン、そしてふわっとしたスカートが揺れる。黄色とピンクのオッドアイは、自分が飛ばされたことが悲しかったのか、少しうるうると揺れている。
「あ、やっと気づいてくれた!この机高いから、ずっと飛び跳ねてるのに気づいてくれないんだもん、疲れちゃったよ〜…。」
蓮 「…この子、誰?」
それは真っ当な言葉だ。何故なら本来、この女の子は今日奏叶達がこうして集まることさえ知らないはずだからだ。
奏叶 「オレは、このマフィアの目標に合うメンバーを誘ったんだが、お前は誘ってないよな…?」
藍 「え、誘ってないの!?」
藍が驚いて声を張るが、奏叶は落ち着いた様子で頷く。
龍 「それ、普通に不法侵入じゃ…。」
奏叶 「…まず、自己紹介をしてやれ。」
「わかった!」
そういうと女の子は少し下がり、皆から見える位置まで動いた。
「兎月ひまりです!高校1年生で、奏叶先生のクラスの生徒!先生が色んな人と話してるの見て、楽しそうだから着いてきた!」
そういって、屈託もなく笑う。しばらくの沈黙を切ったのは、藍の大きなため息だった。
藍 「俺はてっきり奏叶先生が誘ったんだと思ったんだが、そりゃあひまりがここにいることに違和感を感じるわけだ。明らかに場違いなんだもんよ…。」
ひまり 「え、ひまり場違いなの!?」
藍 「場違いも場違いよ。」
そう言って、藍がひまりに近づき、しゃがみこんで優しく話し始めた。
藍 「ひまりはマフィアって知ってるか?普段口に出しにくいような裏社会のグループで、犯罪を犯すような場所なんだよ。今俺達がこうして集まってるのも、そういったマフィア。純粋な一生徒がいていいような場所ではないんだ。」
ひまり 「……?」
ひまりは頭にはてなが着いたような顔で首を傾げると、席に座っている虎空が軽く声を上げた。
虎空 「簡単に言うと、悪いことをいっぱいして、人が沢山死ぬような場所ってこと!」
龍 「あ、ちょっと!」
藍 「随分直球に言ったね〜…。」
藍が心配そうにひまりの方を見ると、ひまりは口に手を当ててカタカタと震えている。後ろでは虎空が「そうでもしないと、分からないだろ〜?」と言い訳を垂れていた。
ひまり 「えっ、人がいっぱい…怖い!怖いよぉ〜!」
ひまりはそう叫んで藍に飛びついた。反射で抱き寄せ、ケラケラと笑う。
藍 「そりゃあ怖いだろうよ!一般の高校1年生がわかるもんじゃないんだから。」
蓮 「で、どうすんの?リーダー。」
虎空 「記憶消すために1回殴るか?…お前は知りすぎた…。」
龍 「冗談でもやめて。…でも、ここにはあまり居させられないですよ。」
全員で奏叶の方を見ると、
奏叶 「…不思議だ、なにか独特な雰囲気を感じる…。」
そうボソッと呟き、皆を見て言い放った。
奏叶 「ひまりも白昼夢のメンバーとしよう。」
蓮 「…え?」
虎空 「はぁっ!?ボス、それはないだろ!なにも知らない子供だぜ!?」
奏叶 「逆に、ここのことを知られて、そのままにしておけるか?」
藍 「うぐっ…。」
何も言い返せない全員を見て、奏叶は頷いた。ひまりはキラキラと目を輝かせている。
ひまり 「じゃあ、ひまは、ここにいていいの?」
奏叶 「…新しい椅子を用意しなくてはな。」
それを聞いたひまりはぱぁっと顔を明るくさせ、満面の笑みで「わ〜い!」と飛び跳ね始めた。
藍 「ちょ、急に飛び跳ねんな!」
龍 「元気な子ですね…。」
虎空 「これは騒がしくなるぞ〜?」
蓮 「だね〜…。」
幸せそうに笑い合う皆を見て、奏叶はふっ、と息をついて外を見た。
奏叶 「…大丈夫だ。きっと、こいつらとなら、ちゃんとした夢を見れるはずだ。」
空は日が沈み始め、少し赤くなっていた。