コメント
0件
一か月ほどが経過した。
リオンとシルヴィの二人はロゼッタの依頼を受けとある魔物の討伐に出かけていた。
場所は深い森の中。
周囲には鬱蒼とした木々が立ち並んでいる。
そんな場所をリオンは歩いていた。
隣にいるシルヴィは、辺りを警戒している。
すると、シルヴィが口を開いた。
「あれが今回の依頼対象…」
その表情は険しい。
どうやら、敵を見つけたようだ。
リオンもそれに気づき、身構える。
すると、茂みの中から大きな熊が現れた。
「…では無いな」
シルヴィが言った。
目の前に現れた熊。
体長三メートルを超えるその巨体は、今まで見たことがないサイズだった。
「大丈夫だよ。あんなのただのデカいだけのクマだから」
シルヴィはあっさりと言う。
だが、二人は知っている。
巨大な生き物はそれだけで恐怖の対象であることを。
ましてや、それが凶暴で危険な生物であればなおさらのこと。
二人はそのクマを無視し先を急ぐ。
クマもリオンたちに気付いてはいないのか、特に襲われることは無かった。
それから数分後。
森の奥深くまで来たところで、目的の魔物を発見した。
「あいつが今回の標的だな」
シルヴィが言う。
それは人の形をした魔物。
身長は二メートルほどあるだろうか。
全身は筋肉で覆われており、手には動物の骨でできたであろう棍棒を持っている。
頭部は角が生えていて、目は赤く光っていた。
「みたいだね」
リオンはこくりとうなずき、剣を構えた。
大きさだけならば先ほどのクマより小さい。
しかし、クマとは比べ物にならないほどの存在感を感じる。
魔物の方もリオンたちの存在に気づいたようで、ゆっくりと近づいてくる。
『グオォォッ!!』
雄たけびを上げながら突進してくる魔物。
それに対し、リオンは横に飛び回避した。
直後、リオンが立っていた場所に魔物が突っ込んでいく。
「よし、行くぞ!」
シルヴィはそう言うと、一気に駆け出す。
そして、すれ違いざまに槍を突き出した。
だが、魔物はその攻撃をものともせず、振り返ると再びシルヴィに向かって突撃してきた。
「ちっ…!」
シルヴィは舌打ちをしながら、横に飛んで攻撃を避ける。
だが、完全に避けきれず、頬から血が流れ落ちた。
「大丈夫ですか!?」
リオンは心配そうな声を上げる。
「ああ、問題ないよ!」
シルヴィは笑顔を浮かべて答えた。
だが、彼女の顔には汗が流れている。
おそらく、かなりギリギリの状態で戦っているのだろう。
リオンは改めて決意を固める。
一方、シルヴィは冷静な様子で魔物を観察していた。
『グオオオッ!!』
魔物は吠えるように叫ぶと、シルヴィに向かって走り出した。
そして、手に持った棍棒を振り下ろす。
「遅いよ」
シルヴィは余裕を持ってそれを避けた。
すると、振り下ろされた棍棒は地面にめり込む。
「まだまだ!」
そう言って、シルヴィは剣を振った。
だが、その一撃は簡単に避けられてしまう。
それを魔物は見逃さなかった。
棍棒を拾うのを諦め、そのままシルヴィに襲い掛かった。
「危ない!」
リオンが叫ぶ。
彼はそう言うと、地面を強く蹴って飛び上がった。
空中で一回転し、魔物の背後に着地する。
人間業とは思えぬ動き。
「…見える!」
以前ロゼッタの言った『魔眼』、それが今のリオンは発現していた。
魔物の動きが手に取るようにわかる。
そしてその次の瞬間、魔物の首筋に鋭い刃が突き刺さる。
リオンの持つ剣によるものだ。
「グオォォォッ!!」
悲鳴のような鳴き声を上げる魔物。
その隙を見逃さず、リオンは剣を引き抜くと、そのまま首を切り落とした。
胴体から離れた頭はそのまま地面に落下する。
あの痙攣をした後、動かなくなった。
「終わった…か」
シルヴィはそう言うと、その場に座り込んだ。
その表情には疲れが見える。
無理も無い。
今の状況は、彼女にとってかなり危なかった。
「お疲れ様です」
リオンはシルヴィの隣に座ると、水筒を手渡す。
シルヴィはそれを受け取ると、ごくごくと喉を鳴らしながら飲んだ。
シルヴィは満足げな笑みを浮かべる。
「ぷはぁ~!!生き返るぅ」
そんなことを言いながら、立ち上がる。
そして、リオンの手を取り引っ張ってきた。
一方のリオンは、魔物の頭部から魔石を抜き取っていた。
それと角を切り落とす。
アリスが薬品を作るのに使うらしい。
「よし、じゃあさっさと帰ろう」
シルヴィは笑顔で言う。
疲れを見せぬように、無理矢理作った笑み。
それをくみ取ったリオン。
あまり長話はしないことにした。
「はい」
リオンも微笑んで答えると、二人は帰路についた。
「それにしても、やっぱり強いですね」
帰り道、リオンはシルヴィに言った。
先ほどの戦闘を見て思ったことだ。
シルヴィはかなり強かった。
以前、彼女と初めて出会ったあの時とは見違えたほどに。
ロゼッタの元で修業を始めてからまだ一か月。
その間に、シルヴィはさらに強くなっていたのだ。
「まあね。でもリオン、キミも相当だと思うぞ」
シルヴィはどこか嬉しそうに言う。
実際、シルヴィはリオンの成長にも驚いていた。
以前のリオンは、とてもではないがこの短期間でここまで強くなるなんて思ってもいなかったからだ。
もちろん、才能があったのは間違いないが、それでもシルヴィは感心していた。
「ははは、ありがとう」
リオンは少し照れ臭そうに礼を言う。
シルヴィは笑顔で返す。
それからしばらくして、二人はロゼッタの屋敷に到着した。
中に入ると、依頼達成の報告を行う。
そして討伐した魔物の魔石と角をロゼッタに手渡した。
ロゼッタは受け取ると、それらを棚の中にしまう。
「確かに受け取った。それにしても、ずいぶん早かったな?」
「そうですか?普通に戦っただけでしたが」
「普通の人間はあれくらいの魔物を倒すのにはもう少しかかるものなのだけど…」
どうやらロゼッタが思っていたよりも早く終わってしまったようだ。
移動も含めて一週間はかかるだろう。
ロゼッタはそう考えていた。
彼女が思ったよりも、リオンとシルヴィは成長している、ということだろう。
「そうなんですか…」
「まあいいよ。とりあえず報酬を渡すから、こちらに来てくれ」
「はい!」
リオンは元気よく返事をする。
そして、ロゼッタの後についていった。
部屋に入り、椅子に腰かける。
テーブルの上には小さな皮袋が置かれていた。
「これが今回の報酬だ」
「えっと…こんなにたくさんもらってもいいんでしょうか?」
「構わないよ。正当な金額だから」
「わかりました…」
リオンは納得すると、金貨の入った袋を受け取った。
そして、中身を確認する。
「(うーむ、すごい量だ)」
ガ―レットたちと組んでた時代にも、これだけの量を貰ったことは無かった。
そもそも、あの時は個別に報酬を貰うことはほとんどなかったのだが…
管理費などの名目で、貰った報酬はほとんどガ―レットが取り残りの僅かな金額を報酬としてもらえた。
今思うと、彼はなにを管理していたのだろうか?
「確認できたかしら?」
「あ、はい」
「それと、魔眼の調子はどう?」
「いちおう能動的に発動は出来るようになりましたが、たまに失敗するときもあります」
「よし、今後は定期的に経過報告をしてもらいたいのだけれど、いいかな?」
「はい。わかりました」
「それとシルヴィくん、剣の腕はどうだい?」
「はい。上達を実感しています。あとは実戦でどこまで使いこなせるかが問題かと」
リオンとの実戦形式での修業。
ロゼッタの指導の下の効率の良いトレーニング。
もし怪我をしてもアリスの作った薬で治療をする。
そういった環境が整っているため、リオンとシルヴィは飛躍的に成長していった。
このような日々をリオンたちは続けていた。
以前のガ―レットたちとの生活よりも遥かに充実した生活だった。