私は赤血球!
私はいつも通り酸素を身体中に運搬しているよ!
私が血管を仲間と話しながら歩いていると、怪我の音が聞こえた。やばい!私たちがほっぽり出されちゃう!
そういう時のお助けとして、血小板ちゃんがいる。
「まかせて!」
血小板ちゃんが仲間をぞろぞろ連れて、怪我部分を塞ごうとする。
私たちはその様子を見る事しか出来ないが、本当にこんなに小さいのに人の身体を繋げる事が出来る能力は凄いな、と思った。
人の身体を繋げるために、フィブリノゲンがフィブリンに変わって、このフィブリンは線維素といい、更にプラスミンという蛋白質分解酵素が関係してくる。線維素溶解っていうのが起こって血小板血栓が固まる。って前リーダーの血小板ちゃんが教えてくれたんだ!
それをしてるんだな〜とほのぼのしていた。
でも、なんか今日は異変があるみたいで。
「ねえねえ、ここの線溶抑制因子が…」
「あれ、変だよ。」
血小板ちゃん達がわちゃわちゃしているので、私が近寄った。
「どうしたの?」
「変なの…なんか血栓が出来るのが早い…」
すると男の人が来た。
「血小板よ、さっさと血小板血栓を作らんか。血液が溢れ出てるぞ!」
「だ、だれ!?」
「俺はプラスミノーゲンアクチベータインヒビター1だ。お前血小板なのに知らねえのか。最近の血小板の脳みそはどうなっとる。」
「ちょ、ちょっと待って下さい、急に現れて開口一番がそれとはなんですか。」
「なんだお前は。ああー、赤血球か。知っとるぞ。だが今はお前に用はない。ていうより離れとけ。吹き飛ばされるぞ。」
私は突き飛ばされた。
「お前か?リーダーは。」
「は、はい」
「無理ならここから俺が全速力で作る。いいな?」
「えっ、で、でも…」
「どうなんだ?」
「うっ…」
男の人と血小板ちゃんが対話している。なんとも不思議な光景。多分街中で見つけたら通報。
そして血小板ちゃんは押しに負け、とりあえず簡易的な血小板血栓を作り、その場からハケた。
血小板ちゃんたちは私の方に来て、隣にぽてぽてと座り始めた。
目の前では今プラスミノーゲンアクチベータインヒビター1が今線維素溶解の準備をしている。なるほど。こいつがやるのか。いや、厳密にはもう繊維素溶解は終わっている。
「あの人の事、知らなかったの?」
「…うん」
私は血小板ちゃんのリーダーと小声で話した。途中でうしろまえちゃんも隣に来た。
うしろまえちゃんが持っていた図鑑を見るに、どうやらこのプラスミノーゲンアクチベータインヒビター1は組織プラスミノーゲンアクチベータを特異的に阻害するはたらきを持つらしい。
その組織プラスミノーゲンアクチベータは血栓を溶かすはたらきがあるらしいので、それを適当に阻害するのがプラスミノーゲンアクチベータインヒビター1という事だ。
でもなんか…今日は調子が悪いらしく、阻害が出来てない?
私は血小板ちゃんとその男の人を観察するも、何故か阻害がちゃんと出来てない。
「おいPAI-1。」
「なんだt-PA。」
「お前今日調子悪いな?」
「まさかな。」
「丁度いい。さっさと血栓を溶かしてやる。」
「やめろ。また出血する。」
私は血小板ちゃんと目を合わせた。プラスミノーゲンアクチベータインヒビター1はとても辛そうに見える。何故だろうか。その瞬間、フィブリンとプラスミンが成した血栓が組織プラスミノーゲンアクチベータによって溶け、ちぎれ、開いた。
「や、やばい!!」
私は血小板ちゃんに掴まった。血小板ちゃんは互いに支え合うのが得意なので、数で質に抵抗する。周りの物に血小板ちゃんが掴まり、更にその血小板ちゃんに血小板ちゃんが掴まり、大きな縄のようなものを形成する。
私が見た光景は、私の仲間や掴まれなかった別の血小板ちゃん、血漿などがその溶け開いた穴から出ていく瞬間だった。
もうダメだ、そう思った時、地面からボコっと注射針が出てきた。いや違う。注射針じゃない。点滴針だ。注射針より細い。
「大丈夫か!」
その点滴針から別の男の人が出てきた。私は血小板ちゃんに掴まりながら、その男の人に相槌を送った。
「初めに言うが、俺はFFPだ。」
「新鮮凍結血漿さん…!」
血小板ちゃんが反応する。なるほど、この人は血漿なのか。
その人の同胞は点滴針からどんどんと出て来て、溶解したフィブリンとプラスミンが成した血栓を治し始めた。
まず前提知識として、血漿、及びFFPには、凝固因子というものを持っている。そして、その凝固因子はフィブリノゲン以外の不足している凝固因子の濃度を高める為に投与される。
またここではないどこかにも点滴針が刺されていたのか、向かい側から血小板ちゃんたちの進軍が見られた。
「赤血球のお姉ちゃん、あれ、援軍だよ!」
血小板ちゃんが嬉しそうに手を振る。向こう側を見ると、高濃度のフィブリノゲンを持っている血小板ちゃんが軍を成してこちらに向かってきている。
実はFFPだけではフィブリノゲンの凝固因子は解決しないらしく、フィブリノゲンが欠けている場合は併用される事があると血小板ちゃんから伝えられた。
少し経つうちに他の白血球さんや赤血球も集まった。そして向こう側にいた血小板ちゃん達の援軍はこちらまで辿り着き、まさに今高濃度フィブリノゲンを持って血小板ちゃん達が出血部分を閉じようとしている。目の前にはフィブリノゲン以外の凝固因子を持ったFFPさんとフィブリノゲンのみの凝固因子を持った血小板ちゃんが共闘していた。
残念ながら私に出来る事はほとんどない。
そう、ほとんど。
でも一部分は出来る。
それは血小板ちゃんのように傷口を矯正、縫合することだ。
実際に赤血球の成分は血小板と血栓を作るために利用される。なら今、それを発揮すべきではないか。
私は血小板ちゃんの中に入り、一応慣れない手つきで凝固因子とフィブリノゲン、所謂フィブリンを組み合わせた。
事実の話をすると赤血球のはたらきは酸素運搬とヘモグロビン所持、二酸化炭素の排出。だから実際には怪我に全く関係はない。怪我をしたら私たちは吸い込まれ、体外へ放出されるだけ。
だから私は結局1つも完成出来ないまま疲れ果てた。凄いよ、血小板ちゃんは。
あんなに小さな身体なのに、私より体に貢献している。
そうこう話している間に、完全な縫合が終了した。だがこれからもこのような症状が起こるとも考えられる。
私はただただ、きょとんとした顔をして拍手するしかなかった。
出血性線溶異常症。何らかの原因で出血した際、一旦止血されても後からまた出血し、完全な止血が出来ず出血が繰り返されるもの。非常に稀な病気で、線溶抑制因子の機能に異常がある人にみられる病気と言える。線溶抑制因子は遺伝する。線維素溶解を抑制する為にトラネキサム酸が使用される事が多いが、出血の際にはトラネキサム酸並びの新鮮凍結血漿が使用される事がある。本話では新鮮凍結血漿治療法とフィブリノゲン投与治療を使用した。
指定難病347に指定されている。
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