そのあと、百貨店の外商が沢山の商品を持ってマンションを訪れたけれど、お店の人なのに立派な花束と、高級お菓子の詰め合わせを渡してきたので驚いた。
まともに買えば一万円以上しそうな立派な花束に、私なら滅多な事がない限り買わない、デパ地下の高級お菓子。
それらをただの手土産として持ってくるのだから、外商にとって涼さんがどれだけ重要な人なのか分かる。
(……そんな人に選ばれた私って……)
目の前では外商スタッフの人たちが、五十畳近くあるリビングダイニングに〝お店〟を開こうと、商品を広げている。
ハンガーに掛けられた服はラックに吊されているけれど、キャスターつきのそれが床を傷つけないように、敷物を敷くところからスタートだ。
「……あ、あの……。手伝わなくていいんですか?」
ソファに座っている私たちは、彼らが手早くセッティングしているのを見ているだけなんだけど、ソワソワして仕方がない。
人にやってもらって当然という感覚がないので、人が働いているのに自分が休んでいるのが落ち着かない。
「恵ちゃんの考えている事は分かるけど、人の仕事をとったら駄目だよ。これは彼らの仕事だし、大切な顧客に仕事を手伝わせたなんて言ったら、彼らの恥になる」
そう言われ、私はコクンと頷いた。
マンションを訪れたのは有名百貨店の外商部の〝担当〟なんだけれど、複数あるハイブランドにもそれぞれ担当がいる。
涼さんが担当に「こういうイメージの女性」と話していたからか、私が普段着ないヒラヒラのロングスカートなどはない。
目に付いたのは鮮やかな色のシャツワンピや、ジャケットとパンツのセットアップ、トップス、ボトムス単品に靴、バッグ、下着、サングラスやアクセサリー、化粧品などだ。
「三日月様、こちら、プレゼントでございます」
ボーッとしていると、四十代の女性が包みを涼さんに手渡してきた。
(……はい? ヴィトンのプレゼント? 無料なの?)
困惑して見ていると、涼さんは「ありがとうございます」と言って贈り物を受け取り、「何だろう」と言いつつ包みを開ける。
するとカバーから出てきたのはブランドロゴが刻まれたクッションで、彼は担当に「ありがとうございます」ともう一度お礼を言ってから、私に「あげる」と手渡してきた。
「ちょ……っ!? わ、わわわわ……」
両手にあるのはフワフワのクッションだけれど、少しでも破損したり、汚したりしないか怖くなった私は、慌てて涼さんに返そうとする。
「恵ちゃんは脚が綺麗そうだから、ミニドレスとか似合いそうだよね」
なのに涼さんは華麗にスルーしてクッションを脇に置き、ハンガーに掛かっているノースリーブのタイトミニワンピを示す。
「い、いや……。あんなミニ、どこに着ていくんですか」
「こっちのワンピースはどう? 丈が長いし、そうヒラヒラもしていないから抵抗が少なそうだけど」
涼さんが示したのは、首元から胸元までがシースルーになった、やはりノースリーブのAラインワンピースだ。
無地でシンプルだけれど、下の部分に鮮やかな花の模様があり、ワンポイントになっている。
他にもマニッシュな雰囲気の、ボレロジャケットとパンツのセットアップ、Tシャツにデニムなどカジュアルな服もあったけれど、どれもハイブランドだと思うと恐ろしくて手にとれない。
おまけにブランドに無知な私でも分かる、Hのロゴが特徴的なバッグまで並んでいて、「お母さーん!」と叫んで泣いて逃げたくなる。
テーブルの上に置かれたのは、普段朱里が熱弁を振るっているデパコスだ。
彼女が特別感を抱き、一つずつ吟味して買い集めている物が、限定品を含めてズラリと並び、感覚がおかしくなってしまいそうで怖い。
固まって棒立ちになった私は、真顔で唇を引き結び、マナーモード宜しくブブブブブ……と震えてる。
涼さんはそんな私を見て、「けーいちゃん」と顔を覗き込んでくる。
「脅すつもりはないけど、これからレストランでのマナーとか、実際に身につけて学んでいかないとならない事がある。うちの家族や親戚の顔を覚えるとかね。それを考えると、ここにある商品から好きな物を選ぶぐらい、どうって事なくない?」
「そ……、そうだけど……」
戸惑っていると、デパコスと服と両方持ってきた担当の女性が話しかけてきた。
「まずはお似合いになるコスメの色から確認して参りましょうか。そのあとにお召し物を決めていくと宜しいのではありませんか?」
確かに、朱里からはナントカベの春夏秋冬があるって話を聞いていたけど、今まで話半分に『ふーん、そうだべか』で受け流していた。
コメント
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恵ちゃん( ̄∀ ̄)ククク… ホント面白い☺️