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「なぁ燕花。他にも、こういう……。俺の世界の物がこの世界にあるって事はあんのか?」
「童殿の世界のものですか?……そうですね。私はまだ童殿と出会って間もないですので把握できていない部分が多いのですが……。もし他にもあれば燕花もぜひ知りたいです」
煌は小さく唸った。仙煙草も醤油も完璧に同じではないにしろ、現代日本の物だ。もしかしたらもっと他の物も……?
だとしたらその答えは恐らく――。
煌が静かに思索に耽りかけたその瞬間———轟音と共に扉が蹴破られる。
「まだ、出来ぬのか? 外にまで美味そうな匂いが漂ってきておる」
その声と共に現れたのは、豊かな仄暗い髪を靡かせた朱雀だった。あれほど外で待っていろと言ったのに、匂いに負けてズカズカと踏み込んでくる。
「おぉっ! 鉄拳の巫女! 今日はまた一段と手の込んだモノを作っておるな!」
続いて白虎まで顔を出す。長い尾を揺らしながら、既に厨房に並べられた皿を興味津々で眺め回している。
「白虎よ。勝手に童の領域に入り込むでないわ!」
「あぁん? 何言ってやがる! 鉄拳の巫女の手料理は皆のものだろうが!」
「違う! 童が作るものは全てわしのもんだ!」
朱雀と白虎の視線が空中で火花を散らす。二人は睨み合うようにして、同時に調理台に乗り出す。
どうでもいいが、五月蠅い。
どさくさに紛れて、皿に伸びて来た手を叩き落とし、パシィィン! と、厨房に乾いた音が響き渡る。
「痛っ……!? 童、乱暴だぞ。わしはただ、お前の作ったものが不埒な輩に汚されぬよう、毒見を……」
「へっ、いい気味だぜ朱雀! お前がベタベタ触ろうとするからだろ」
「す、朱雀様! 毒見なら我々がします故……」
「そうですよ! 万が一毒であったなら大変でございますから……っ」
叩かれた手をさする朱雀と、それを嘲笑う白虎。さらに、どさくさに紛れて「毒見(つまみ食い)」の権利を勝ち取ろうと詰め寄るジジイ神官たち。
カオスを極める厨房で、煌はおたまを凶器のように構えて一喝した。
「――ったく、うるせぇんだよお前ら!!」
煌の怒声が、煮え立つ鍋の音をかき消して響き渡った。
「人が考え事してるときに、ギャーギャー騒ぐんじゃねぇ! 毒見だのなんだの、ガキみたいな言い訳して皿に手ぇ伸ばしてんじゃねぇぞ!」
その迫力に、白虎は「おっと……」としっぽを丸めて一歩下がり、朱雀は不満げに唇を尖らせた。だが、朱雀はすぐに煌の背後へ回り込むと、周囲で鼻血を出しながら恍惚としていた神官たちを冷酷な眼光で射抜いた。
「……下がれ。わしの童を、あわよくば触ろうなどと不敬な真似を……。これ以上、その卑俗な視線でわしの獲物を汚すというなら、万死に値するぞ」
「「「ひ、ひぃっ! 申し訳ございません!!」」」
煌の「食わせない」という宣告よりも先に、朱雀の「殺気」が神官たちの生存本能を叩き潰す。
神官たちが這うようにして退却していく中、朱雀は満足げに煌の腰を引き寄せ、その首筋に顔を寄せた。
「童。この男たちの醜い『欲』から、わしが直々にお前を護ってやっているのだ。感謝こそされ、疎まれる筋合いはない」
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「護る? どの口が言ってんだよ。一番邪魔してんのはてめぇだっ!」
煌は、どさくさに紛れて自分の腰に回ろうとしていた朱雀の腕を容赦なく振り払う。
廊下の隅では、さっき散っていった神官達が中の様子をそわそわと窺っている。そのなかに混じって静遠が「……痴れ者が。見ているだけで胃に穴が開きそうだ」と、震える手で腹を押さえているのがわかった。
「がはは! 朱雀の独占欲はもはや病気だな。そんなことより鉄拳の巫女よ、こいつの言うことなんて放っておいて、早く俺にその『肉じゃが』ってやつを食わせてくれよ」
白虎は、朱雀の放つ重苦しい殺気などどこ吹く風で、調理台に身を乗り出して鼻をひくつかせた。
「……白虎。お主には汁一滴すら分けぬ。童が作ったものは、毛の一本に至るまでわしの独占物だ」
「ケッ、ケチくせぇこと言ってんじゃねぇよ。おい! 鉄拳の巫女よ。こいつの目の前で全部俺が平らげてやろうか?」
バチバチと火花を散らす二人の「雄」を前に、燕花だけはクスクスと楽しげに笑いながら、手際よく盛り付けの皿を並べていく。
「ふふ、皆様の仲が良いのは結構ですが……童殿の堪忍袋の緒が切れて、本当に食卓から追い出されてしまいますよ?」
煌は、どさくさに紛れて自分の腰を囲い込もうとしていた朱雀の腕を、容赦なく振り払う。
廊下の隅では、先ほど散っていったはずの神官たちが、未練がましく扉の影から「そわそわ」と中の様子を窺っている。その中になぜか、護衛のはずの静遠が混じっていた。
「……痴れ者が。見ているだけで胃に穴が開きそうだ」
彼は震える手で腹を押さえ、吐き捨てるように呟く。見たくないはずなのに、立ち込める甘辛い醤油の香りと、主君たちのあまりの体たらくに、その場を離れることすらできないようだった。
「がはは! 朱雀の独占欲はもはや病気だな。そんなことより鉄拳の巫女よ、こいつの言うことなんて放っておいて、早く俺にその『肉じゃが』ってやつを食わせてくれよ」
白虎は、朱雀が放つヒリつくような殺気などどこ吹く風で、調理台に身を乗り出した。期待に、銀色の尾がぶんぶんと空を切る。
「……白虎。お主には汁一滴すら分けぬ。童が作ったものは、毛の一本に至るまでわしの独占物だ」
「ケッ、ケチくせぇこと言ってんじゃねぇよ。おい! 鉄拳の巫女。こいつの目の前で、俺が全部平らげてやろうか?」
バチバチと火花を散らす二人の「雄」。その視線が交差するたび、厨房の空気が物理的に重くなっていく。
その中心で、燕花だけはクスクスと楽しげに鈴を転がすような声で笑い、手際よく盛り付けの皿を並べていった。
「ふふ、皆様の仲が良いのは結構ですが……童殿の堪忍袋の緒が切れて、本当に食卓から追い出されてしまいますよ?」
その言葉に、朱雀と白虎が同時にぴたりと動きを止めた。
「む?……それは、困る」
朱雀が不本意そうに眉を寄せ、ようやく煌から半歩分だけ距離を置く。
煌は、煮汁の煮詰まる「じゅわっ」という心地よい音を背に、呆れ果てて深く溜息をついた。
「わかったなら、さっさと座れ。……燕花、こいつらから先に盛ってやってくれ。黙らせねーと仕事にならねぇ」
(それに、白虎から知ってる情報を少しでも多く聞き出さねぇと……)
ぶっきらぼうに言い放ちながらも、煌は一番大きなジャガイモを朱雀と白虎の皿へ均等に振り分けた。