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まあ、こういうのも悪くないなと思う自分がいる。
「じゃ、最後はデザートで締めますか」
後藤が言うので、デザートもあんのかと思い再びメニュー表を開く。
そこに載っていたのは、カニカニくんパフェ、カニ型プリン、カニチョコくん、の文字と写真。
ハルは早速プリンを、後藤はカニチョコくんを注文する気満々のようで、俺だけ注文しないのもあれなので…
(ま、まあ、不味くはないだろ)
そう自分に言い聞かせながら注文し、しばらく待つと3つのデザートが運ばれてきた。
パフェの大きさに一瞬たじろぐが、意を決してスプーンを手に取り、てっぺんにあるカニの形をしたホワイトチョコを頬張る。
すると中からチョコソースとクリームが溢れ出てきた。
そしてまた一口、した後アイスを食べる度に、チョコとバニラアイスの甘みが広がる。
(うっま……やべえなこれ)
2人はというと、俺と同様に美味しさをかみ締めていた。
そんなとき、突然見知らぬ男が
「あれ、ハルじゃん」と言って乱入してきた。
誰だこいつ、ハル呼びしてるし、知り合いか…?
とハルに聞こうとするが、明らかにハルは嫌な顔を浮かべている。
そうこうしている間に、男が自ら名乗った。
「ども、ハルの元カレで~す♡」
やはりというかなんというか、その言葉に、一瞬時間が止まったような錯覚を覚える。
元カレと名乗った男は続けて口を開く。
「なにお前、もう新しい彼氏?彼氏とセフレで分けてたりしてな~?」
「この2人はそういうんじゃないし…僕は君と違ってそんなことしないよ…!」
ハルが否定してもギャハハと下品に笑うその内容は、先程の良い空気をぶち壊すには十分すぎた。
「キミな、彼氏だかなんだか知らないが、いい加減に…」
後藤が止めようとするも、そいつはハルの肩に腕を回してベラベラと口を動かす。
「なあハル、また俺のとこ戻ってこいよ~?どーせまだ俺のこと好きだろ?お前単純だもんな」
その一挙手一投足全てが癪に障る。
今すぐにでもこいつを殴り飛ばしてやりたくなる。
気がつくと、俺は勢いよくフォークを男の目に向けて、目の中に入るすれすれで止めたていた。
男はいきなりのことに驚いたようで、ハルから離れて両手を上げて「うわ…物騒~」と冷ややかに失笑する。
俺はフォークを持つ手に力を込めて言う。
「こいつにベタベタ触んな」
心の中で『こいつは俺のもんだ』と強く考えてしまい
抑えきれない嫉妬の情が燃えるように、咎めるような視線を向ける。
だからなのか、男はひぇっと変な声を漏らして、逃げるようにその場を去っで行った。
俺は我に返り、フォークを机の上に置くと
軽くため息をついた後、ハルに「悪い、やり過ぎたか」かと聞く。
「え?う、ううん!ただ、びっくりしちゃった…なんかごめんね?」
「謝んな」
その横では後藤が、何か言いたげな目で俺を見ていた。
「な、なんだよ後藤」
「ん?いや、沖口にしちゃ珍しいなと思ってな…」
「喧嘩売ってんのか?」
「アホか、お前は血気盛んすぎるだろ」
そして、カフェを出た後。
「じゃ、俺こっちだから。今日はありがとな!楽しかったわ」
俺とハルは後藤に別れを告げて帰路につく。
「あ、あのさ!」
突然ハルが声を出す。
「なに?」
「あっちゃんさ……今日楽しかった?」
「は?なんでそんなこと」
「いや!だって、最後にあんなことあったし、嫌じゃなかったかなって…」
嫌な気分になったのはお前の方だろうに、本当にお人好しつーか…
「まあ、確かに最初は乗り気じゃなかったけどよ」
「そ、そうだよね」
「でも、お前が楽しそうにしてるとこ見れたし…あのカニメニューは案外?美味かったしな、俺もそこそこ楽しませてもらった」
「それに最後のはお前のせいじゃねえから」
そう言うと、ハルの頭をぐしゃっと撫でた。
「気にすんな」の一言すら言えない自分が悔しい。
それでもこいつは「ありがと、あっちゃん!」と微笑んでくるもんだから、心底安心するというものだ。
「ただ、今度は二人で行くからな。まだ行きたいとこあったら誘ってこい」
「え!いいの?!じゃあ久々に今度家でゲームしようよ…!!」
「はあ?ゲーム?」
「そうそう!…また、勝負しようよ」
「いーけど、景品は?」
「なにか用意しとく!来週の土曜とかどう?」
「いいじゃん、絶対負かしてやっから」
「そうやって毎回2勝3敗してるけどね?」
「んだと?」
「ちょ、ちょっと頬引っ張らないでひょ~!!」
ああ、良い。
俺のハルって感じ…
最近になって分かったけど、どうもこいつを見てると独り占めしたくなる。
気持ちを伝えられない分、こういう時間が1番幸せだな。
それだけで、明日からの日常も頑張れる気がする。
……俺って本当に単純だ。
◆◇◆◇
翌朝、自室のベッドの上で目を覚ました。
起きて最初に思い浮かんだのは、昨日の別れ際のハルの笑顔。
ハルとまた会える口実ができただけで、こんなにも浮かれている。
ゲームで勝負、か。
中高生時代はよくやってたっけ。懐かしいな。
あの頃は、特に理由もなくハルとつるんでいた。
いつも一緒にいるのが当たり前で、それが俺にとっての日常だった。
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