「何とかなったか…」
辺り一面真っ白で左右を絶壁に挟まれているところに俺は仰向けになっている。あのドラゴン・イクシードに派手に吹き飛ばされたが何とかこのように無事に生きている。
「…ユウト!!大丈夫?!?!」
すると必死に俺のことを呼びかけるセラピィがすぐそばにいた。
どうやらセラピィも無事のようだ。
「何とか大丈夫だよ。セラピィこそ、デバフとか怪我とかはない?」
「大丈夫だよ!ユウトに隠れてたからセラピィは何もないよ」
俺はセラピィの返事を聞いて安心すると、インベントリから回復ポーションを取り出して飲み干す。そしてゆっくりと立ち上がって自分の体の状態を確かめる。特に大した怪我などはなさそうでとりあえず良かった。
次にステータスを確認して何か状態異常が付与されていないかも確認しておいたが特におかしなものはなかった。どうやら健康体スキルが最終的にすべてのデバフを弾き返してくれたようだ。
本当に厄介な相手だな、あのドラゴン・イクシード。
ふと顔を上げて自分が落ちてきた山頂方向を見上げてみる。
かなりの高さを落ちてきてしまったようで山頂の様子は吹雪で全く確認が出来ない。
探知魔法と地図化スキルで確認してみたがどうやらドラゴン・イクシードは俺たちを追って来ずに山頂に居続けているようだ。どうして追って来ないのかは分からないが今の俺にとっては幸いなことである。
「しかし、どうしたものか…」
正直今すぐにでもドラゴン・イクシードに再戦を挑みに行きたいところではあるが、先ほどからかなり吹雪が強いせいでこの谷底から山頂に昇るまでにかなりの時間と労力を要してしまうだろう。また一度山を下りてギルドの報告に行くにしてもこの天候ではそちらも同じく時間も労力もかかってしまう。
どちらを選ぶにしても、とりあえずどこかで休めそうなところを探してこの吹雪が収まるのを待った方が効率は良さそうだ。そこで奴の対策と分析を行ってもいいだろうしな。
「セラピィ、とりあえずどこか洞窟みたいなところでも探して一度休もうか」
「うん、分かった!」
俺は地図化スキルを使用して周囲の地形を把握する。
するとここから少し進んだ先に洞窟のようなところがあることが分かった。
そうして俺たちは吹雪が収まるまで休むべくその洞窟の方へと向かうことにした。
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「ふぅ…ここなら何とか吹雪をしのげそうだな」
洞窟の中へと入ってみるとそこは外とは大違いで過ごしやすい空間が広がっていた。吹雪が当たらないだけでこうも環境は変わって感じるのかと少し感心した。
見たところこの洞窟はかなり奥まで続いているようでどこまで続いているのか、また奥に魔物などはいないかと探知魔法で探ってみた。するとかなり奥の方まで続いていることが分かったのだが、洞窟の突き当り周辺に何やら弱々しい魔力反応が確認できた。
かなり弱い反応なので大した魔物ではないのだろう。
もしあれなら少し休憩してから確認してみるのもいいかもしれない。
「ここで少し休んでいこうか」
「うんっ!」
俺はインベントリから火属性の魔法が込められた小さな魔晶石を取り出して洞窟の真ん中に置いておく。その魔晶石に魔力を少し込めるとほんのりと周囲が温かくなっていった。
これは王都で買い出しをした際に買っておいた前世で言うところのカイロに近いものである。寒いところに行くというのは分かっていたので事前に買っておいたのだ。
俺はステータスが高いおかげなのかあまり寒さや暑さに影響されないらしく、それに加えてボルグさんの装備によって暑さや寒さに耐性がついているから特に必要ないかもしれない。それでも目の前の魔晶石に手をかざしていると何だか気持ちまで温かくなってくるような気がする。
そうしてしばらくの間、洞窟の壁にもたれかかりながら休息を取った。
休みながらも先ほどのドラゴン・イクシードのことは頭から離れることはなかった。
おそらく数十分ほど休んですっかりと元気を取り戻した。しかし外はまだまだ猛吹雪でしばらく止みそうになかったので俺たちは洞窟の奥へと気晴らしに探検をしてみることにした。先ほど感じた弱々しい魔力の正体も少し気になるしな。
「ねぇ、ユウト。この奥に何かいるんだよね?」
「うん、そうみたい。弱々しい魔力しか感じなかったからそれほど強い魔物じゃないと思うよ」
反応の感じからしてもセラピィに危険が及びそうなレベルでもないし心配する必要はないだろう。それに一匹だけのようだし何かあってもすぐに俺が対処すれば問題ないだろう。
そうして俺たちはたわいのない会話をしながら洞窟の奥へと向かっていった。
「何だこれ…血、か?」
洞窟の奥の方へと進んでいくと真っ暗になっていって何も見えなくなったので火属性の魔法『トーチ』で光源を作る出して歩いていった。すると先ほどまで全く気にしていなかったのだが足元には何やら血の跡のような赤黒い液体が点々と奥へと続いているのだ。
その血の跡のようなものは時間がかなり経っているのか赤黒く固まっていた。よく見て見ると洞窟の入り口の方にも血の跡があったのだが周囲の色と同化しかけておりかなり分かりにくくなっていた。
「もしかして何かが瀕死の状態でこの洞窟に辿り着いたのだろうか…?」
「ユウト、まだ魔力は感じるんだよね?」
「うん、かなり弱いけどまだかすかに魔力は感じるよ」
するとセラピィは少し心配そうな声色で言葉を発した。
「もしかしたらあのドラゴンにやられたのかも。ねぇ、助けてあげてくれないかな?」
俺はセラピィのお願いを聞くかどうか正直迷っている。まだこの魔力の正体がどんな存在なのか分からない以上、もしかしたら狂暴な魔物である可能性だってある。助けた瞬間に襲い掛かってくるかもしれないのだから簡単に助けるとは約束できないのだ。
「もしも狂暴な魔物や危ない相手だったら助けることは出来ないけど、それでもいい?」
「うん、危ないなら仕方がないよ。でもそうじゃなければ助けてあげて欲しい」
俺はセラピィと危ない相手では無ければ助けると約束をした。
そうして俺たちは手遅れになってはいけないので急いで洞窟の奥へと向かうことにする。
「…あれだ!」
俺たちはしばらく進んだ先に何かが倒れているのを見つけた。
さらにスピードを上げて近寄ってみるとそこには驚くような状況が広がっていた。
「なっ、なんでこんなところに女の子が?!」
そう、そこには腹部から大量の血を流して倒れている全裸の少女の姿があった。
俺は急いで彼女に治癒魔法をかけて全力で治療を行う。
頼む!間に合ってくれ!!!
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