雨が静かに降る夜。
賢太はネズミのくしゃみほどの小さな「声」で起きた。
今日は自分でも不思議なくらい、寝つきが悪かったのだ。
なんだか喉の奥がひんやりとして、気持ち悪い。
いつもなら、目覚まし時計でも起きないのに。
ため息をつきながらがらりと窓を開けて外の空気を部屋い入れると、少し肌寒かった。
声はまだやまない。
窓から顔を出し外を見下ろすと、一人、女の子がいた。
すすり泣くような声を出しながら、賢太の家の前を通り過ぎていく。
常夜灯に照らされて、ひたひたと濡れた髪を揺らす。
すると、何かに気づいたように、こちらを向いた。
切ないような、悲しいような、そんな表情を浮かべながらこちらを見ている。
目からは涙がぽろぽろとこぼれ落ちて、真っ黒なワンピースを濡らす。
視線を離すと、なんだかあの娘が消えてしまいそうで、瞬き一つ、できなかった。
彼女はゆっくりと口を開く。
「もう、やだよぉ・・・」
それは、聞き覚えのある声だった。
「・・・本田?」
「賢太!早く起きて。」
・・・
分かってる。
だるい。
結局、あの後一睡もできなかった。
「ほら、友達が来てるのよ。急ぎなさい。」
え?
「真姫ちゃんと優くんと佐々木さん、待ってるわ。」
あの三人が俺に用?何かあったんだろか。
「ちょっと、早く。」
「はぁ」
軽くため息をついて着替える。
(あれ、そういやぁ、俺、何で起きてたんだっけ。)
頭の中にポンと出てきた疑問が、風船のようにむくむく膨れ上がる。
(確か、本田が真夜中に歩いてて・・・)
?
(本田って、誰だ?)
思わず手が止まり、すかさず母に注意された。
「なぁに考えてんの?」
ホントに、何考えてんだ、俺。
つーか、本田って、誰だよ。
「母さん」
つい口を開いてしまう。
「本田って女子、知ってる?」
俺もバカだ、母さんが知ってるはずないのに。
「さぁ、誰?」
それ見ろ。
「はいはい、無駄話終了。あんまり友達を待たせないでよ。」
その一言で俺の部屋を去る。
ま、いっか。
本当に必要なことならいつか思い出すだろう。
「すまん、お待たせ。」
三人はもうリビングで何やら話をしていたようだ。
でもなぜだか少ないように見える。
「あ、賢太。ちょっと話があるんだけど。」
?
何だ?
雨宮真姫が口を開く。
「あのさ、芽衣ちゃんって女の子、知らない?」
芽衣・・・?
誰だそれ。
「さぁ、知んねぇ。」
すかさず矢部優が口をはさむ。
「ねぇ、なんか知ってることないの?」
佐々木和也もうなずいた。
「ねぇ、誰⁉」
はぁ?知るか。
さっきから知らないって言ってっだろ。
あと急に言われても意味わかんねぇ。
「ちょっと順を追って説明してもらわんことにゃわかることでもわかんなくねぇ?」
「そうね。」
真姫が言った。
「私が説明する。」
「昨日ね、真夜中に、女の子がうちへ来たの。」
優と和也もそうだと口をそろえる。
「うちにも来た。」
「うちにも。」
?
それって
「スゲ、うちにも来た。」
やっぱりアイツって俺らの知り合い?
「で、きづいたら、芽衣ちゃんって呼んでたの。無意識に。」
「右に同じ、」
「左に同じ。」
お、俺は、
「俺は本田って、呼んでた。」
「え?」
真姫が少しびっくりする。
「ちょっと待って、整理するわ。」
「もし、もしよ、親友県幼馴染の私たち5人の出会った人が同じならば、その人の名前は『本田芽衣』の可能性が高い。」
「ちょっと待って、5人⁉」
優が突っ込む。
「だってほら、今ここにいるのって・・・」
優の指先が真姫から和也へ、和也から俺へ、俺から優へと移る。
「4人・・・」
なぜだか首筋がひんやりする。
昨晩感じたものと似ている違和感が、俺らの間を走った。
「5人、いたはずよね。」
すかさず真姫が確認する。
俺はうなずく。
あぁ、なんか人数が足りない気がしてた。
優も、和也もうなずく。
「忘れてたのって、本田芽衣・・・?」
さっきまでみんな知らないと言っていた人だった。
だけど否定できない。
そうするとつじつまが合うのだ。
俺たちは顔を見合わせてからリビングを出た。
「行ってきます!!」
コメント
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初小説! 奮闘したぜ・・・(^ω^)