夏も終わり木の葉が赤に染る季節になった。
授業も終わりトビくんと帰ろうかと考えていた。声をかけ、呼び止められた。
後ろを向くと、鐸ちゃんのクラスの委員長がいた。
その子は、背が私よりも低く、艶のある綺麗な黒髪をなびかせ、頬を赤らめていて
私よりも、大人っぽく、可愛らしい。
その子は口を開いた。
「あのっ、私D組の黒木潤奈って言うんですけど」
「うん、鐸ちゃんのクラスの委員長だよねぇ」
「はい!七瀬さん……ですよね?」
「そぉだけど、なぁに?」
「少し相談してもいいですか?」
「…いいよぉ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、駅前のカフェ行こう?」
「私の家が近いんだけどそれでいい?」
「いいよぉ」
最初は可愛らしい子で友達になろうと思った
けどあの事が頭をよぎった。
「ねぇねぇ、菫ちゃん」
「なぁに?鐸ちゃん」
「聞いた?トビくんって元カノいたって話」
「え!?ほんとぉ?」
「うん 」
「ちなみに誰ぇ?」
「えっと、黒木…さんだったかな?」
私は今、好きな人の元カノと話してるんだ。
この人がトビくんのハジメテを全て貰った。
ファーストキスもセカンドキスも童貞もなにもかも。そんな人の相談を受けようとしている。
そんな事で頭がいっぱいで 思わず足を止めてしまった。
「…七瀬さん?」
「どうかしたの?」
「あっ…ごめんねぇ、ボーッとしてたぁ」
「そっか」
「あ、着いたよ」
「うん」
カランカランと入口の鈴がなりお洒落なカフェが目に入った。
人は少ないがそれがいい味を出している。
「ここに座ろっか」
「そぉだね」
「七瀬さん、何か頼む?」
「あ、ホットミルクがいいなぁ」
「分かった」
「じゃあ、私はコーヒーにしようかな」
「頼んでくるから、座ってて」
「うん」
見た目にあった大人っぽい物を頼む。
それに、気遣いもできる。
トビくんはこういうとこに惹かれたのかなとか考えていたら呼ばれた。
「はい」
「ありがとぉ」
「うん」
「それで、相談の事なんだけど……」
「私…糸操くんにもう一度告白しようと思ってるんだ。」
頭をガツンと殴られたような気がした。
「それで、別れた理由はさ…糸操くん、白澤くんと仲良くて、手繋いでたり頭撫でたりしてて 」
「私、白澤くんに嫉妬して酷い事したの」
「ひどい事ってぇ? 」
「大声で怒鳴ったんだ『白澤くんばっかりずるい、糸操くんといる時間を邪魔するのはいつも白澤くんだ』って」
「そしたら白澤くん…気を使って糸操くんと仲良くしようとしなかった」
「最初は嬉しかった、糸操くんの初めてを全部貰えて」
「うん」
「私なんかに時間を使ってくれて」
「けど、違う気がしたんだ」
「白澤くんみたいに頭を撫でたり外で手を繋がなかったり、私との関係を秘密にしてるみたいで」
「そのうちに満足しなくて、満たされなくて」
「別れたんだ」
「うん」
「今ではすごく後悔してる」
「そっかぁ」
「それでね、七瀬さん糸操くんと仲良いって聞いたから」
「協力してくれたら嬉しいなって」
「ぁ……」
ずるい
「ほんとに情報とか教えてくれるだけでいいの」
ずるいよ
「お願い」
そんな目で見られたら、断れないじゃん
「わかったぁ」
「…!ありがとう!」
黒木さんは眩しく可愛らしい笑顔を見せた。
私は今、笑えてるかな
「七瀬さん、今日はありがとう」
「うん」
「明日から、よろしくね」
「うん、分かった」
「じゃ、バイバイ」
「うん」
黒木さんは私と違い綺麗でいい子だ。
愛嬌のある笑顔で見てるだけで心が満たされる、そんな笑顔だ。昔の過ちを反省してしっかり前を見て…トビくんとの関係を頑張って直そうとしている。
ポツポツと水滴が空から降ってきた。
「わ”っ!?雨!?」
(しまった、傘学校に置いてきた! )
どこか雨宿り出来るところはないだろうかと辺りを見回したが出来るところがあまり無かった。走りながら探そう。そう考えていた。
「……?」
突然、空が見えなくなり頭に何か被せられた
「こっち」
聞いた事のある声が体を引き寄せ、裏路地へ入った。
「ぶはっ!?何ぃ!?」
「髪崩れたぁっ!!」
「ごめんごめん、でもあんまり濡れなかっただろ?」
「チャシロ!」
「よ、大丈夫か?寒くないか?」
「ああ、大丈夫ぅ」
どうやら、チャシロがパーカーを傘代わりにして裏路地へ連れ込んだようだ。
「ここなら濡れねぇから」
「へぇ〜」
「あ、皆には秘密な?」
「うん」
「…んー」
「なにぃ?」
「七瀬、元気ない?」
「え?」
「眉間にしーわ」
眉間に指をトントンと当てられた。
いつもならこんなことされたら蹴飛ばしてる
トビくん以外にされるのが嫌だから。
けど今は反抗する気も起きない。そんな自分が嫌で座り込むとチャシロが 「本当に大丈夫か?」 といい顔を覗き込む。
「ちょっと疲れた」
「ふーん」
「黒木と何かあった?」
「え?なんで知ってんのぉ?」
「いや、黒木と別れてるのたまたま見たし」
「あっそ……きもぉ」
「はぁ!?!?何でだよ!」
「…はぁ…それで?なんかあった?」
「……チャシロはもし別れたなら…それでもうおしまいぃ?また仲を戻したいと思うぅ?」
「なにそれ、答えになってねぇー」
「いいから!応えろ!」
「…俺は仲は戻したい」
「けど、付き合いたいとは思わない」
「そ」
「なんだよ〜」
「黒木さんさ…」
「トビくんにもう一度告白するって」
「はぁ!?マジで!?」
「うるさい」
「告白するから、トビくん堕とすから協力してってぇ」
「…なんて答えたんだ?」
「うんって…言っちゃった……ぁ」
「それで良かったの?」
「よくないっ!断れない空気だったのぉ!」
「…そっかー」
「……」
「……」
「七瀬はどうしたい? 」
「…ぇ」
「七瀬はトビを取られるの嫌?」
「……だ」
「やだぁ……」
「ん、そっか」
「よし!任せろ」
「え?」
「俺が話付けてくる」
「マジでぇ?」
「おう」
「… 」
「ん?どうした?」
「やっぱ、いい」
「え?」
「自分で言うからぁ…!」
「おう!」
「……」
「「あ!雨…!」」
気づくと雨はやんでいた。
雲から太陽が顔を出し、赤に染った木の葉から水が滴っている。
それに、うっすらと虹がでている。
チャシロに「行ってこい!」と背中を押された。
無我夢中で走った。
あのカフェの近くに家があるって言っているのを思い出した。
(居た…!)
「黒木さぁーーん!!!」
「七瀬さん…?」
「はぁはぁ…」
「その…トビくんの事なんだけどぉ」
「糸操くん?」
「ごめんね!手伝えないぃ!」
「私も糸操くんのこと好きで!言えなくてごめんなさいぃっ!」
「…」
(言えた…やっと!素直に…!)
「…あは、そっか」
「私も確認しないでごめんね」
「言えない空気作っちゃってたもんね」
「……」
「分かった、じゃあライバルだ」
「恨みっこなしだよ!」
「うん!」
やっぱり、黒木さんはいい子だ。
さっきまで私の中にかかっていた霧が晴れた。
チャシロにありがとうって伝えないと
そして、いつか私もいい子になれるといいな
コメント
5件
菫ちゃん黒木に負けないで頑張って下さい🤩