「アカン。炎が小さくなって、土蜘蛛があっという間に回復して来た!」
そんな声を聞いて、ここまで来て私はなんと役立たずなのだと思った。
結局何も出来ない。
そんなのは嫌だと必死に前に手を突き出す。なのに、その手を鷹夜様が押さえ込んだ。
「もういい、環っ。もう十分だっ」
その声に本当に?
もうしんどい思いをしなくてもいいのかと、気弱な私が首をもたげた。
でも、それは違うと弱虫を追い払う。
血の味がする口の中。歯を食いしばって鷹夜様の手を振り払って、手を前に翳し続けた。
血がまた口からこぼれたけど、どうでもいい。土蜘蛛の体に向かって炎を集中させる──が。
土蜘蛛が口から白い糸を吐き出して、どんどん炎を消して行く。
土蜘蛛の体の表面は|爛《ただ》れていたが、みるみると何事もなかったように回復していく。何という回復力。
これこそが、土蜘蛛の恐ろしさだと知る。
この回復力を上回る炎を出せないかと、焼き払えないかと、炎にありったけの力を込める。
「うっ、鷹夜様に……人殺し、なんかさせないっ。私、だって。人を、愛する|鷹夜《人》を守りたいのっ!」
その時、涙が頬を伝った。
すると大昔の気持ちが蘇った。目の前がチカチカと輝く。
「これは──」
これは玉藻の気持ちだ。
愛する人を守る為に、自分が悪者になって身を引いた。
そして最後は次の来世こそ、妖なんかじゃなくて人間に生まれ変わって、人を愛したい。
人として生きたいと願ってから阿倍野晴命に告白して、自ら首を差し出したこと。
そうやって|終焉《しゅうえん》を迎えた、玉藻の気持ちが胸にあふれかえった。
「あっ……あ、あぁっ!!」
「環っ、どうした!?」
涙も溢れて止まらなかった。
この悲しい玉藻の気持ちを、受け止めてあげるのは私しかいない。
だからこそ、今ここで──全ての力を出さないと私は私の願いを叶えられない。
今ここで私の全てを曝け出しても大丈夫。
私を愛してくれる鷹夜様なら──大丈夫。
《《全てを受け止めてくれる》》。
だから初めて、私は玉藻に。
私自身に訴えた。
「お願い。力を貸して。一緒に|私《玉藻》の願いを叶えよう!!」
その瞬間。
私を取り囲むようにあまりにも眩い光の洪水が私を包み込んだ。
それは炎よりも眩しく、黄金の炎よりも力強い、純白の汚れなき光。
地上に星が落ちてきたのかと思う光量に目をギュッと瞑って、瞳を開いたとき。
体をさいなんでいた苦しみは綺麗に去っていた。それどころか体の隅々に行き渡る途方もない力に、体が熱いくらいだ。息が整い、心に力と余裕が戻る。
光の洪水が収まると頭と髪、腰あたりに違和感を感じた。
それよりも目の前の鷹夜様や隣にいる人達が、私を信じられないといった様子で見ていた。
その瞬間、私は全てを察した。
──あはっと笑った。すると鷹夜様がはっとして声を出した。
「た、環。全身が輝いて……髪がさらに長くなって……その耳、九つの尻尾は……?」
あぁ、やっぱりと思う。
首を傾げて苦笑いをする。
「力が足りないから、九尾になってみました」






