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 赤錆のシャッターが、ぎこちなく持ち上がった。


 隙間から吹き込む風は冷たい。

 潮の匂いの奥に、焦げ臭さがほんの少し混じっている。


 木崎が先に身を滑り込ませ、内部を見回した。


 「……中、真っ暗だ。足元、気をつけろ」


 ハレルがサキの手を引き、続く。


 シャッターの下をくぐった瞬間――外の音が遠のいた。


 コンテナの軋みも風も、急に“壁一枚”向こうへ追いやられたみたいに薄い。


 サキが小声で言う。


 「ねえ……ここ、音が……変」


 木崎がうなずいた。


 「距離感が壊れてる。……境界の薄さだ」


 通路の奥へ進むほど、床のコンクリートが妙にざらつく。


 手すりに触れると、冷たい鉄のはずなのに、指先に“石の感触”が混じった。


 ハレルは胸元のネックレスを握った。


 金属が、じわりと熱を持っている。脈みたいに。


 スマホが震えた。


 画面には、見慣れないノイズと短い文字が滲む。


 ――B2


 ――INNER


 ――STORAGE


 「地下……か」


 木崎が言い、壁際の非常灯を探すが、点いていない。


 代わりに、ハレルのネックレスの熱が、進む方向を“押す”みたいに強くなった。


 サキが顔を上げる。


 「お兄ちゃん……熱いの?


 「……うん。たぶん、こっちだって言ってる」


 ◆ ◆ ◆


【異世界・ミラージュ・ホロウ/心臓室】


 白い座標杭の光が、ミシ……と軋んだ。


 黒霧が床を這い、杭の根元を削っている。


 アデルは剣を構え直し、短く命じた。


 「杭を“増やす”な。組み替える。防御域を厚くする」


 白い杭が位置を変え、三角形だった陣が“二重の円”に近い形へ組み替わる。


 黒霧は押し返されるが、止まらない。

 まるで場所そのものを腐らせるみたいに広がる。


 リオは脇腹の痛みを抑え、腕輪を押さえた。


 青白い光が弾け、黒い糸が近づくたびに弾き返す。


 「柱に近づけるな。腕輪を狙ってる」



 「わかっている」



 アデルの左腕輪も淡く脈を打つ。空間が少しだけ整う。


 イヤーカフ越しに、ノノの声が早口で飛び込んだ。


 『二人とも! いま“同期の山”が来る! 主鍵が近い!

 心臓室の形を保って! ここ崩れたら全部終わる!』


 黒ローブ三人が、こちらの“通信”と“杭”を同時に潰しに動く。


 狙いが明確になって、余計に怖い。


 ◆ ◆ ◆


【現実世界・旧搬入口内部】


 階段を降りる。


 一段、二段――数える感覚が途中から狂う。

 「まだ半分」のはずなのに、足がもう“地下の底”に着いてしまいそうで。


 壁際に古い案内板があった。文字は剥げ、社名だけが読める。


 ――CROSSGATE


 木崎が低く息を吐く。


 「旧本社……やっぱりここだ」


 曲がり角を曲がった瞬間、ハレルのスマホ画面がまた勝手に切り替わった。


 白い背景に、短い表示。


 【GATE SYNC】


 【LOCK:MAIN KEY REQUIRED】


 ハレルの喉が鳴った。


 「……同期、って……」


 サキが唾を飲む。


 「ねえ……今、空気……揺れた」


 確かに。薄い膜が、通路を横切った気がした。


 ハレルは、ふと“遠いはずの声”を感じた。


 耳で聞いたというより、胸の奥に触れた感じ。


 剣が擦れる金属音。青白い光が弾ける気配。焦げた霧の匂い。


 (……戦ってる。向こうで)


 木崎がハレルの表情を見て、即座に言う。


 「急げ。これ、時間がズレてる。向こうの“少し”が、こっちの“少し”と同じとは限らない」


 最奥の扉に辿り着いた。


 扉は金属。だが、継ぎ目に黒い石が混じっている。


 現実の扉に、異世界の材質が“噛み込んだ”みたいに。


 扉の横に、小さな端末が埋め込まれていた。


 そして――そのスロットは、完全に“ペンダントの形”だった。


 ハレルはネックレスを握りしめる。


 熱が、今までで一番強い。まるで「ここだ」と叩いてくる。


 木崎が短く言う。


 「開けるなら今だ。開いたら――もう引き返せないかもしれない」


 サキが震える息で、でも視線は逸らさず言った。


 「……私、後ろ見る。誰か来たら言う。だから、早く」


 ハレルはうなずき、ネックレスを端末へかざした。


 カチ――
 金属が“合う”感触。


 端末の文字が走り、ノイズが一度だけ弾ける。


 【ACCESS GRANTED】


 【STORAGE — B2 INNER】


 同時に、扉の隙間から冷たい風が吹き抜けた。


 潮でも油でもない匂い。


 古い記録紙みたいな乾いた匂いが、ほんの一瞬だけ混ざった。



 ――同じ頃。


 ミラージュ・ホロウ心臓室では、柱の表示がわずかに変わり、黒ローブ三人の動きが一段速くなった。


 “主鍵が来た”と、気づいたからだ。


 境界同期が、最大まで張り詰める。


 次に入る一歩が、“核”に届く。



 ◆ ◆ ◆


異世界殺人―クロスゲート・サスペンス―

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