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「昨日、知り合ったんだよ。兄さんと同じ部署だって聞いて親近感が湧いたというか、春から後輩になるかもしれないし、というのは建前でもう一度会えたらいいなと思って来ました」
はぁ
賢一はため息をついてから
「雪、新二の話は無視していいから」
「ひどいな〜雪さんと兄さんって単なる同僚じゃないの?なんか怪しい」
新二さんに背中を向ける形で賢一が座っているため、自分からも新二さんの姿が見えなくなった。
「それ飲んだら行こうか」
フォアローゼスのホットを指さしたかと思うとそのままグラスを持ち上げゴクリと飲んだ。
「ホットもいいね、体が温まる」
和也さんは生暖かい目で見ている。
これじゃ、ただの同僚という感じではなくなるよね。
「もしかして、雪さんって兄さんと」
ブーブーブーブー
新二さんが話をしている途中で賢一のポケットからバイブ音が響いた。
ブーブーブーブー
ブーブーブーブー
かなりしつこい。
「賢一?電話に出たほうがいいんじゃない?」
「ああ、悪い」
明らかに乗る気がない表情で席を立ちトイレに向かった。
「雪さんて兄さんと付き合ってたんだ」
先程までのおちゃらけた表情とは違い真面目な表情で新二さんが言った。
「本人のいないところで勝手に言ってはいけないと思って」
「ふ〜ん、兄さんに恋人ね。兄さんの好みって本当はこんな感じなんだ。ぜんぜん違う」
「新二くん、失礼だよ」
ぜんぜん違うって何?恋人だと言わなかった私も悪いかもしれないけど、こんなに不躾な言い方って、すごく気分が悪くなったがさすがに和也さんは大人だ。
ピシャリと言ってくれたお陰で場の空気がかわった。
「ごめんごめん、ちょっとトイレ」
新二さんは軽く言うと席を立った。
「雪さんごめんね、悪い子じゃないんだけどね」
「平気です」
かなり気分は悪いけど、それ以上に態度が急変したことが気になった。
和也さんが他の客の対応に行ったためスマホのロックを解除するとTwitterに数件の通知が入っている。
相変わらずAyaさんからもメッセージが届いていた。
この人は私の返事は望んでいない、ただ私を翻弄したいだけだ。
メッセージを開くとまた写真が貼られていた。
男性のへそのあたりに女性らしい手が添えられた写真。
でも、私が気になったのは足の付け根あたりにあるほくろだ。
私はこの男性(ひと)を知っている。
このほくろを見たことがある。
「雪?」
背後から声をかけられて慌ててメッセージを閉じる。
見られただろうか?
状況を知らず、私があの画像を見ている姿を見たら、単に私がああいう画像を見るのが好きな女認定されそうだ。
「どうかした?」
「な、何でもない」
賢一の表情からはあの画像が見えたのかどうか読み取れないがあえて私から何かを言う必要はない。
「電話はいいの?」
「ああ、大丈夫だ。行こう」
「新二さんは?」
「あいつはいいんだ。早く二人になりたい」