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「……014……?」
悠真は、霧の向こうに立つ少年を見つめていた。
白い服。
まだ十歳ほどにしか見えない。
なのに、その目だけが異様だった。
子供の目ではない。
まるで、何十年もの時間を生きてきた人間の目。
少年は、もう一度だけ指を二回鳴らした。
パチン。
パチン。
悠真の胸がざわついた。
「その合図……」
母が幼い頃の自分に教えてくれたもの。
怖い時。
誰にも言えない時。
指を二回鳴らせば、母が必ず気づいてくれる。
「どうして、お前がそれを知ってる?」
少年は答えない。
ただ、悠真を見つめている。
そして。
ゆっくりと口を開いた。
「……やっと、会えた」
悠真の背筋が凍った。
「今……何て?」
少年は一歩、こちらへ近づいた。
「神崎悠真」
その声は幼い。
だが、言葉遣いには子供らしさがなかった。
「お前は……十三人目だ」
「……!」
悠真は息を呑んだ。
「お前も……俺を知っているのか?」
少年は首を横に振る。
「違う」
そして、自分の胸に手を当てた。
「俺が、お前を知っているんじゃない」
「……?」
少年は悠真を指差した。
「お前の中に、俺がいる」
その瞬間。
頭の奥で激痛が走った。
「ぐっ……!」
視界が歪む。
白い部屋。
手術台。
無数のモニター。
そして、そこに並んでいる十三人。
全員。
同じ顔だった。
神崎悠真。
一人。
二人。
三人。
四人。
五人。
六人。
七人。
八人。
九人。
十人。
猫とろ
186
ねらち
111
十一人。
十二人。
十三人。
全員が違う服を着ていた。
刑事。
医師。
研究員。
宗教服。
学生。
囚人。
そして。
最後の一人だけが、白い髪だった。
「これは……」
映像の中の白髪の男が振り返る。
その顔も、神崎悠真だった。
『十三人分の記憶を、一つに戻す』
誰かが言った。
『それが、最終目的です』
映像が切り替わる。
今度は少年。
014。
少年の頭部に装置が取り付けられている。
そして画面に表示される。
【記憶転送率】
【13%】
【27%】
【41%】
【68%】
【92%】
【100%】
そこで映像が止まった。
「……100%?」
悠真は呟く。
少年は静かに答えた。
「そう」
「何が100%なんだ?」
少年は笑った。
子供らしい笑顔ではなかった。
「神崎悠真の記憶」
「……!」
「十三人に分けられていた記憶を、全部戻した」
悠真は少年を見つめる。
「じゃあ……お前は何なんだ?」
少年は少し考えてから答えた。
「十四人目」
「……」
「だけど」
少年は続ける。
「十三人目とは違う」
「何が違う?」
少年は一歩近づいた。
そして悠真の耳元で囁いた。
「俺には、死んだ記憶がある」
悠真の表情が固まった。
「……死んだ?」
「うん」
「お前はまだ生きているだろ」
「この身体はね」
少年は自分の胸を指で叩いた。
「でも、この身体の前に……俺は何度も死んでる」
その言葉を聞いた瞬間。
悠真の頭の中に、これまで見た光景が一気に蘇った。
廃病院。
地下祭壇。
十三本の柱。
もう一人の自分。
佐伯。
少女。
母。
そして。
自分自身の死。
「……まさか」
悠真は少年を見る。
「お前は……」
少年が頷いた。
「そう」
「俺の……十四回目?」
少年は首を横に振った。
「違う」
「……?」
「十四回目は、もう始まってる」
少年の目が悠真を捉える。
「そして」
その瞬間、病院全体に警報が鳴り響いた。
『最終被験者014、記憶統合を確認』
『神崎悠真、十三号との接触を確認』
『最終段階へ移行します』
悠真の顔から血の気が引いた。
「十三号……?」
少年が答える。
「それがお前だよ」
「……俺が?」
「うん」
少年は笑った。
「十三号は失敗作だった」
悠真の拳が震える。
「……何だと?」
「だから、十四号を作った」
少年は窓の外を指差した。
病院の屋上。
そこには。
もう一人の神崎悠真が立っていた。
白髪の男。
悠真がこれまで見てきた誰よりも、自分に似ている。
白髪の神崎は、こちらを見ていた。
そして口を動かす。
「ようやく揃った」
その声が、病院中のスピーカーから響いた。
『十三人の記憶』
『そして十四人目の身体』
悠真は少年を見る。
少年もまた、悠真を見る。
「これで完成する」
「何が……?」
少年は答えた。
「本物の神崎悠真」
悠真の背後から、足音が聞こえた。
振り返る。
そこには母が立っていた。
しかし。
母の顔には、これまで見たことのない恐怖が浮かんでいた。
「……悠真」
「母さん?」
母は震える声で言った。
「逃げて」
「え?」
「その子から離れて」
少年が母を見る。
その瞬間。
少年の表情が変わった。
「……母さん」
母が凍りつく。
「その呼び方……」
少年は微笑んだ。
「覚えてるよ」
そして。
「あなたが俺を殺した日も」
母の顔が青ざめた。
悠真は母を見る。
「……母さん?」
母は何も答えなかった。
少年は静かに続ける。
「だから、今度は僕が聞く番だ」
「何を……?」
少年の目から、涙が一筋流れた。
「どうして、僕を殺したの?」
病院の警報が鳴り続ける。
そして画面には、新しい文字が表示された。
【PROJECT REINCARNATION】
【SUBJECT 014】
【記憶統合率:100%】
【人格同期開始】
その下に。
誰も予想していなかった文字が表示された。
【神崎悠真:オリジナル人格】
【現在地:014】
悠真は、その文字を見つめた。
「……オリジナル……?」
少年が笑う。
「やっと思い出した」
「何を?」
少年は悠真を指差した。
「お前が、俺だったんだよ」
そして病院の照明が、一斉に消えた。
コメント
1件
うわ、これ……一気に核心に迫ってきたな。記憶が13人に分割されてて、悠真自身が“十三号”の失敗作で、少年が“014”のオリジナル人格――って構造、めちゃくちゃ緻密だ。しかも母親が過去に少年を♡♡♡たっていう伏線、本当にゾッとした。最後の「お前が、俺だったんだよ」で全部がひっくり返る感じ、鳥肌立った。続きが気になりすぎる……!