運命は残酷だ。 何もかも俺から奪っていく。俺に何が残っているのか、自分でもわからない。俺は誰かに差し伸べてもらうのを待っているのかもしれない。 そんな誰かがこの先、現れるのか。待っていてもしょうがない。だって、現れるはずもないのだから…
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「次々と前にいる選手たちをいとも簡単に抜き去っていく!誰も止められない鋭いドリブル!そして、ゴーーール!!」
そう、テレビの奥で実況が冴え渡る。母さんが見ていたにもかかわらず、テレビの電源を切る。俺、西条寺遙16歳、高校生。西条寺はサッカー界では名の知れた名前だ。その理由は代々西条寺家はサッカー界で名を馳せているからだ。俺の祖父、西条寺琥太郎(コタロウ)と祖母、西条寺美希(ミキ)は若い頃、日本を背負って何度も優勝に導いた。その異名はエリアのキングとクイーン。父、西条寺徹(トオル)と母、西条寺雅恵(マサエ)も若い頃、日本代表で活躍し今は引退して父は男子日本代表の監督と、世界サッカー協会に所属している。世界サッカー協会とは、より優れた選手を育成するために、コーチを派遣したり、スカウトしたりしている。大会の運営も関わっている。
俺は、5人兄弟の末っ子。兄貴たちも、サッカー界に名を馳せている有名人だ。俺は、2歳からサッカーをやり始め、10歳の頃に、スペインに飛んだ。
ジュニアチームに所属し何回も優勝した。その頃日本のサッカー界では知らない人なんていないくらい俺も有名だった。だが、俺は生まれた時から心臓が弱く、喘息も患っていた。
12歳までは、薬があればまだ、体はついていけていたが、13歳の頃、周りは成長期でどんどん身体能力も上がっていき、俺は、サッカーの技術は優れていたが、体がついてこられず、最後まで試合を出ることができなくなっていった。出れたとしても、45分もつかという具合だった。医者からはサッカーをするなら30分、それ以上は体が持たないと言われていた。
そして、14歳の時、サッカーができなくなった。その日心臓に違和感があったが、これまでにないくらい体が軽かった。その日は練習試合で、前半かなり厳しい戦況だった。2対2の同点で、後半戦が突入した。俺は体調がいつも以上によかったため、監督に後半から出させてほしいと断られながらも何回も頼み、何かあったらすぐ交代と言う条件で後半の最初から出させてもらうことになった。
今思えば、ちゃんと時間を守っていれば、まだ、サッカーができていたのかもしれない。後半45分が経ちアディショナルタイムが2分と表示され、俺は何としても勝ちたかった。ボールを奪い、相手ゴールまで全速力でドリブルをし、相手をどんどん抜き去る。そして、ゴールの前まで行き、キーパーと1対1での戦い。しかし、その時体の奥底から何かが喉から口へ、そしてそれを吐き出した。俺は何が起きたのか分からなかった。服、地面に赤黒い液体で、染められている。視界に映るみんなは唖然としている。中には俺の元に叫びながら駆け寄ってくるチームメイトもいる。けど、なぜかスローモーションがかかったかのように遅く見え、何も聞こえない。息もできない。だんだん視界が暗くなっていく。そこから俺は記憶がなかった。
目を覚ましたら、見覚えのない白い天井、泣きながら俺の名前を呼ぶ母さんがいた。医者が言うには、俺が倒れて1週間、昏睡状態だったそうだ。そして、あの日、心臓に異常があったにもかかわらず試合に出たこと、また、俺が試合に出られる時間をオーバーしてしまい、心臓に負荷がかかり喘息も出ていたことで、吐血し、倒れたと言う。「これ以上、サッカーを続けるのは難しいかと…」頭が真っ白になっていく。俺はこれまで何を頑張ってきたのか分からなくなっていった。 病室に戻り、母さんや、駆けつけてくれた父さんや兄さんたちは、何も言わず、俺を1人にしてくれた。1人になった瞬間、目から大量に涙が溢れてきた。「俺はもう、サッカーはできないんだ…」その言葉は俺の心を奈落の底へと突き落としていった。
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