僕らはそのまま沈黙を守り続けた。やがて看護師さんが入ってきて、お疲れ様でした、と点滴を外してくれる。
「受付で精算したらもう帰って大丈夫ですからね、まだまだ育ち盛りなんだからよく食べてよく寝なきゃダメよ〜」
恰幅の良い50代くらいの女性看護師が柔らかな笑顔で話しかけてくれる。
「ありがとうございます、お手数おかけしちゃって」
「丁寧な子ね〜、まだ少しふらつくかしら?大丈夫?」
俺は立ち上がる。ちょっとだけ足元に違和感があるが、ずっと寝ていたせいだろう。頭痛も吐き気ももうない。それを伝えると、看護師は安心したように頷いて去っていった。
「涼ちゃん、今日バイト?」
「あ……今日は休み」
ずっと黙り込んでいた彼に、急に話しかけられたことに驚き、戸惑ってしまう。
「そしたらご飯作るからうち食べこいよ」
えっ、と思わずたじろぐ。
「悪いよそんなの。大丈夫、反省したし。今日からちゃんと食べるから」
「あ……違う、俺が涼ちゃんに食わせたいの。俺小さい頃から料理してるから、自分で言うのもなんだけど結構うまいよ。食べてみたくない?」
きっと彼なりに気を使って、さっきの発言でぎこちなくなってしまった空気をいつもの調子に戻そうとしてくれているのだろう。俺は笑って頷いた。
病院を出ると、昼下がりの刺すような日差しが俺たちに照りつける。歩ける?と聞かれて、もうさすがに大丈夫だから、と苦笑してしまう。
スーパーに寄ってから彼の暮らすアパートへと向かう。大学で一緒に過ごすことは多くても、シュンの部屋へ行くのは初めてだ。バンド練のあとにたむろするのは決まってみっちーの部屋だし、それ以外では夜などは特にお互いバイトをしているのもあってあまり部屋に遊びに行こうとはならない。なんだか変に緊張してしまう。
「おじゃましまーす」
なんとなくかしこまってしまう。何硬くなってんだよ、とシュンが苦笑しながら俺の肩をたたいた。
部屋は整然としている……というよりも圧倒的にものが少なかった。ワンルームの中央にテーブルと座椅子。隅にベッド。床には本が何冊も平置きに積まれていて、それから壁にギターが立てかけてある。それだけ。
「何もないなって?」
心の中を見透かされたようで、えっ、と俺は動揺明らかに声をあげてしまう。
「俺もそう思うよ……まぁ座って」
彼は冷蔵庫から冷たい麦茶を出してくれる。
「本棚くらいはそろそろ買おうと思ってるけどね。あ、気になる本あったら読んでていいよ」
そう言ってシュンは廊下にあるキッチンの方へ消える。平積みされた本を俺はひと通り眺めてみたが、なんだか難しそうなものばかりだった。そのうちの1冊を手に取りなんとなくぱらぱらとめくっているうちに、廊下の方からいい香りがしてくる。ぐう、とお腹が鳴った。久々に俺は「お腹が減ったな」と思った。
シュンが作ってくれたのはオムライスだった。ケチャップでニコちゃんマークが描かれており、あまりの可愛らしさに笑ってしまう。
「なにこれ!かわいい」
「元気が出るニコちゃんマーク」
なにそれ、と笑う。シュンがちょっと照れたようにそっぽを向いた。
「腹減った〜食お食お」
そうか、病院付き添ってくれたから彼も昼ごはんを食べ損ねていたのだ、と気づく。悪いことしたな。
「「いただきます」」
ふたりで手を合わせる。
「うれしい、オムライス好きなんだけど、自分じゃこうやって卵に包めないんだよね〜」
ひとくちスプーンですくって、口に運ぶ。あ、これは。
「おいしい~!あとこれケチャップライスだ!」
シュンが不思議そうに俺を見る。
「普通そうだろ、なにそんなレアキャラにでくわしたみたいな」
「いや、それがさぁ、俺の家はちがくて、なんか今考えると不思議なオムライスだったんだよね……あの頃はあれが普通だったんだけど……」
「なにそれ、バターライスとも違うの?」
「違う違う、えっとねチャーハンとも似てるけど違うんだよなぁ……全然説明できないけどとにかく美味しいんだよ」
俺の雑すぎる説明に彼は苦笑する。
「えー、なんだそれ。食べてみたいかも……今度涼ちゃんが作ってよ」
「いや、作り方わっかんないから俺は無理だけど、うちの近くの定食屋さんのオムライスがまさにそれだったんだよ!すごくない?!」
「無理なんかい。まぁいいや、じゃあ今度その定食屋、一緒にいこう」
嬉しくなって俺はうんうん、と勢いよく頷く。シュンは目を細めてやさしく笑う。
「涼ちゃんが俺って言ってんの初めて聞いた」
あれ、と思わず口に手を当てる。特に意識して分けようと思っている訳でないのだが、なんとなく高校までの仲良かった友人や家族の前以外だと一人称が「僕」になるのだ。外向き、とまでは言わないまでもなんとなくのラインがそこにはあるのだろうと思っていた。
「もともとどっちも使うんだけど……確かに大学入ってからはずっと「僕」だったかも」
へぇ、と言ってシュンは
「なんか珍しい涼ちゃんみれてラッキー」
と笑う。どきり、と心臓が跳ねた。
※※※
今日はケンミンショーに涼ちゃんが出ますね!
わくわくだ〜✨
皆様いつもコメントありがとうございます!
敬語等なしでも大丈夫なので気軽に絡んでいただけたら嬉しいです😊
コメント
6件
ぬふぅ⤴︎⤴︎可愛いかよ
りょうちゃんがシュンくんに惹かれていく様が、めちゃ良いです🥹💛 今日と明日、テレビでりょうちゃん見れるので私も楽しみで🤭💕もう最近のりょうちゃんのビジュが可愛いくてやばいです🥹
ケンミンショー録画しました! でも塾あってリアタイ出来ない(;`皿´)グヌヌ帰ってきたら即見る!