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日曜日。私は何時間もかけて選んだお気に入りのワンピースを着て、駅前の広場に立っていた。
鏡の前で何度も確認した前髪、少しだけ背伸びして塗ったリップ。凌先輩を待つ時間は、緊張で心臓が口から飛び出しそうだった。
「お待たせ、紗南ちゃん。私服もすごく可愛いね」
人混みの中から現れた凌先輩は、眩しいくらいの「王子様」だった。
シンプルなシャツをさらりと着こなし、誰からも振り返られるような清潔感。そんな人が私の隣を歩き、私のためにショップのドアを開けてくれる。
(……夢じゃないよね。今、私、凌先輩と二人きりで歩いてる……)
ショップでラケットを選ぶ先輩の横顔を眺めているだけで、胸がいっぱいになった。先輩が「これ、紗南ちゃんはどう思う?」と意見を求めてくれるたび、自分が特別な存在になれたような錯覚に陥る。
「……ねえ、紗南ちゃん。やっぱり君を誘って良かった」
パンケーキのお店に入り、向かい合って座ると、先輩がふいに優しく目を細めた。
「遥といる時の君も楽しそうだけど、僕といる時の君は、なんだか大人っぽく見えるよ」
その言葉に、体中の血が沸騰しそうになった。先輩にそんな風に見られていたなんて。
勇気を出して、ずっと聞きたかったことを口にしようとしたその時。
「……あ。……紗南?」
店の入り口で、聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこにはテニスウェアを買いに来たらしい、ジャージ姿の遥が立っていた。手にはスポーツショップの袋を提げ、驚いたように目を見開いている。
「……遥。……偶然だね」
凌先輩が余裕の笑みで手を挙げる。
遥の視線は、先輩の笑顔から、私のワンピース、そしてテーブルの上の甘いパンケーキへと動き、最後に私の顔で止まった。
「……ああ。……そうだな、偶然だ」
遥の声は、驚くほど低くて静かだった。いつものように突っかかってくることも、怒鳴ることもない。ただ、ひどく場違いな場所に来てしまったような顔で、私をじっと見つめている。
「……邪魔したな。……悪かったよ、二人でいる時に。……兄貴、紗南をあんまり遅くまで連れ回すなよ」
遥はそれだけ言うと、背を向けて店を出て行った。
追いかけようとした私の足は、向かい側に座る凌先輩の「紗南ちゃん?」という優しい声に引き止められてしまった。