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涼ちゃんは、スタジオの隅でひとり椅子に座っていた。照明は落とされ、さっきまで賑やかだった空間が、嘘みたいに静かだ。
スマホの画面には、未読のメッセージがいくつも並んでいる。
元貴から、若井から、スタッフから。
でも、指が動かなかった。
(どうせ……心配してる“ふり”だ)
胸の奥に、重たいものが沈んでいく。
前は、そんなこと思わなかった。
心配してもらえるのが、嬉しかったはずなのに。
「……俺が弱いからだよな」
ぽつりと零れた声は、誰にも届かない。
最近、何をしても“ちゃんとできていない気がする”。
笑っても、キーボードを弾いているだけでも、立っているだけでも、
「ここにいていいのか」って考えてしまう。
ドアが少しだけ開いた。
「涼ちゃん?」
若井の声だった。
いつもより、少し慎重な声。
涼ちゃんは顔を上げない。
「……なに?」
「まだ帰ってなかったんだ。体調、大丈夫?」
その一言で、胸の奥がざわつく。
“大丈夫?”
その言葉が、今の涼ちゃんには刺さりすぎた。
「大丈夫だよ。いつもそう言ってるでしょ」
自分でも驚くほど、冷たい声だった。
若井は一瞬言葉に詰まる。
それでも、そっと距離を縮めた。
「涼ちゃん、最近……無理してない?」
その瞬間、涼ちゃんの中で何かが切れた。
「無理してない人なんて、ここにいる?」
顔を上げる。
目は笑っていない。
「無理しないと、置いてかれるでしょ。
役に立たなかったら、いらなくなるでしょ」
若井は、何も言えなくなった。
涼ちゃんは立ち上がり、背を向ける。
「もういいよ。今日は帰る」
引き止める声も聞かずに、歩き出す。
背中は真っ直ぐなのに、どこか壊れそうで。
その背中を見ながら、若井は初めてはっきり思った。
――このままじゃ、涼ちゃんは本当に
“戻れないところ”まで行ってしまうかもしれない。
闇は、もうすぐそこまで来ていた。
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閉じたドアの向こうで
涼ちゃんの闇堕ちですわよ