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「あ、ねぇ千鶴、お兄ちゃん出産祝いを持って行くって言うんだけど、何がいいかしら?」
「んー。私はおむつケーキと商品券にしたけど、お兄ちゃんがおむつケーキってのもねぇ……」
「おむつケーキ⁉ なんだそれ? おむつの形をしたケーキ? 趣味悪いな……」
「違うわよ。おむつケーキって言うのは、本物のおむつをいくつも使って段重ねケーキの形を作るの。それを可愛いリボンでまとめて、見栄え良くクマちゃんとかうさぎちゃんとかの小さなぬいぐるみを乗っけて、デコレーションケーキのように見せたもののことよ。あ、写真撮ってたわ」
これこれ、と言ってスマホをスクロールして見せてくれた。
なるほど。おむつ自体は白だから、まとめればケーキのように見えるってことか。
これならプレゼントとして見栄えは良さそうだが、俺が持って行くにはちょっと……。
「なんだ、そんな相談くらいできるような女友達はいないのか?」
「は? なんでそんな話になるんだよ……」
「出産祝いを選んでもらうのを口実に女の子を誘うとか」
「プハッ! もう、お父さんったら全部そっちの方に話を持って行っちゃうのね。恋愛脳なの?」
頭に花が咲いているのか? まったく……。
「父さんは孫が欲しいだけだ。千鶴でもいいんだぞー。千鶴が産んでくれたら父さんも――」
「私はまだ無理よ。あ、お兄ちゃんと一緒にしないでよ? 私はちゃんと相手もいて、人生設計を考えているんだから。それに順番で言ったらまずはお兄ちゃんでしょう?」
げっ……結局俺に戻るのかよ。
ただでさえ杏子のことで落ち込んでいるのに、今すぐは考えられないんだけど?
まあそんなことはここで言えない。
「また大輝くん連れてきなさいよ。千鶴の彼、びっくりするくらいのイケメンなのよ~。目の保養になるの~」
「イケメン……」
頭の中に、昨日湯船に浸かっていたイケメンの顔が浮かんだ。
杏子の旦那もイケメンだったな……。
「大輝ね、お祖母さまが亡くなられたみたいでバタバタしていたの。私は当直でお通夜に行けなかったんだけど」
「あら、言ってよ。お母さん何もしてないじゃない」
「あ、ごめん……。でも家族葬でお香典とか受け取らないみたいだったし」
「そうだったとしても、ちゃんと言いなさい」
「はーい……」
千鶴の彼氏は一つ年上の医局の同僚だそうだ。親にも紹介して、ちゃんと先を見据えた付き合いをしているようだな。
俺と違ってしっかりしている妹だから、将来設計もちゃんと先の先まで考えているのだろう。
「大輝ね、お祖母さまのこともあるけど、従姉さんのことが心配みたい」
「いとこって、前にいってたシングルマザーの?」
「シングルマザー?」
「うん。大輝の従姉さんはシングルマザーなの。亡くなったお祖母さまとその従姉さんが同居していて、一緒に育ててたの。従姉さん一人になっちゃったでしょう? すごく心配していて」
「両親はいないのか?」
「いるわよ。いるんだけど、ちょっと複雑で一緒には住めないみたい。大輝から見たら伯父さんね。その伯父さんは若くして奥様を亡くされて、今の後妻さんは20歳年下なんだって。従姉さんとの仲は円満なんだけど、従姉さんは若い奥さんに遠慮してお祖母さまと一緒に暮らすことを選んだんだって」
それは……杏子と全く同じパターンだな。杏子はシングルマザーじゃないけど。
「シングルマザーか……。その子も大変だな、一人で産んで育てるなんて。しかも一緒に暮らしていたばあさんが亡くなったんだろう。そりゃ大輝くんも心配だろう」
「うん。昨日もひなちゃんをお風呂に入れに行ってたわ」
「あら、女の子なの? 大輝くんの従姉さんの子ならきっと可愛いんでしょうね」
「すっごく可愛いわ。前に写真を見せてもらったの。大輝もメロメロね」
ひなって名前はよくある名前なのか?
杏子の娘も自分のこと『ひな』って言ってたよな。
「そうか。けどシングルマザーってのがなぁ……」
「お父さん、偏見は良くないわ」
「偏見じゃない。父さんが言いたいのは、相手の男は何をしてるんだってことだ。シングルマザーになるのも一人でなれるものじゃないだろう?」
「たしかに……」
「どういう事情があるのかはわからないが、男であっても女であっても、子供を作るようなことは責任が取れる環境ですることだと父さんは思うぞ。責任を取らない相手の男は最低だな」
家族の幸せを一番に考える父親らしい意見だ。
俺だって……もし杏子との間に子供ができていたら、どれだけ大切にしただろう。
あの子が俺の子供だったら……。
「大輝にとってはお姉さんのような存在だから、今は目が離せないんだって」
「千鶴はいいの?」
「え?」
「大輝くん、取られたような気がしないの?」
「取られる……それはないな。むしろそこで手を差し伸べないような男なら、元から惚れないわ」
「フフフ……千鶴らしいわね」