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文豪の書く切ない系ストーリーはがちで見てて飽きない......今回も最高でした👍👍👍
天才か…?
切ない話を書ける人間になりたかったです。
アメリックはたぶん甘党なので苦いの嫌いだったらかわいいなとか思います。
ドイツと日本は喫煙仲間だといいな。
🇺🇸🇯🇵前提の🇩🇪→🇯🇵です。
***
シガーケースから煙草を一本取り出し、火をつけて口に咥える。
空気とともに煙を肺いっぱいに吸い込んでフーっと吐き出した。
───生き返るな。
舌に広がる煙の風味を堪能しながらそう思った。
ついさっき仕事が終わり、一服ついているところだった。
喫煙室には自分一人だけ。
特に何を思うでもなく窓の外を眺める。喫煙室の窓から見えるのは夜の空と人工的な明かりが彩るオフィス街。
実に面白味のない景色だ。
窓の外に興味を失い、足を組み替えたところで喫煙室に新しく人が入ってくる。
🇯🇵「ドイツさん」
どうやら同僚の日本だったらしい。
彼は扉を開き掛けて止め、俺の名前を意外そうに呼んだ。
🇯🇵「禁煙中だったんでは」
🇩🇪「上司に休憩時間潰された憂さ晴らし」
🇯🇵「体に悪いですよ」
🇩🇪「お前もな」
お互い乾いた笑いをこぼす。
日本は喫煙室の中まで入ってくると、俺のすぐ隣に腰を下ろした。
🇯🇵「まぁ…私も今日は休憩取れませんでしたけど」
言いながら、彼は煙草を一本取り出す。
🇩🇪「今日“も”の間違いだろ」
🇯🇵「よくお分かりで」
火をつけ、口に咥える。
🇯🇵「はーっ……」
ため息混じりに紫煙が吐き出された。
🇩🇪「そういやお前も禁煙してたんじゃなかったか?」
🇯🇵「あー…それがですね…」
彼は口篭りながら言った。
🇯🇵「煙の匂い、アメリカさんが苦手みたいで。控えていたんですよ」
あの陽気な同僚の名前が出てきたことに俺は思わず表情を歪めた。
🇩🇪「…へぇ」
🇯🇵「もう今日は会う予定もないので少しならいいかなと」
彼はその童顔によく似合う悪戯っぽい笑みを作って見せた。それが余計にたまらない。
言葉で言い表すのなら、これは所謂嫉妬というものだ。
🇩🇪「……」
ずくりと胸の奥が冷たく疼いた。
彼も自分も随分変わってしまったけれど、本質は昔と変わらない。
だからこそ、彼を丸め込むどころか掌中に収めてしまった彼奴が、アメリカが鬱陶しく感じることがある。
結局彼に───日本に大きな影響を与えるのはいつだって彼奴なんだろうか。
そんな彼奴が羨ましい、と思う。
まだもう少しお互いの関係が近かった頃の面影を日本に感じる度、積もっていく感情はより暗いものになっていく。もしかするとあの時ですら日本は彼奴を見ていたのかもしれない。
🇯🇵「ドイツさん?」
🇩🇪「お前、彼奴のこと好きなのか」
彼は煙草から口を離したまま数秒固まった。自分でもどうしてこんな質問をしたのかわからなかった。
🇯🇵「…やっぱり分かりますか」
恥ずかしそうに、微かにその白い頬を染めながらそう答える。その芍薬みたいな恥じらいに、自分の中で嫉妬という名の化け物が暴れはじめるのを確かに感じた。
🇯🇵「わ、私そんなにわかりやすいですか?」
🇩🇪「お前はそれでいいと思うぞ」
彼のすぐに表情に出る癖は愛らしいと思う。でも俺はお前の想いを肯定できるほど良い奴じゃない。
🇯🇵「もう、それどういう意味ですか」
🇩🇪「そのままの意味だ」
煙草を灰皿に押しつけ、火を消しながら言う。
🇯🇵「そろそろ帰りますか」
🇩🇪「ん」
彼はいつも通りの笑みを零す。
彼からの信頼が、時折酷くもどかしい。愛していたくて、愛されていたくて手放すのが惜しい。
彼は俺の前を歩き、先に喫煙室を出る。どうしてかその背中から目を逸らしたくなった。
少しずつ、でも確かに離れていく彼に限りない愛惜の情を抱いてしまう。
🇩🇪「……辛い恋をしてんだな」
───辛い恋をしている。俺も、お前も。
自虐的な引きつった笑みを自身の顔に浮かべながら、そんな言葉を誰もいない喫煙室に言い置いた。
***