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20話 「小さな橋渡し」
翌朝、村長から「近くの小川に荷物を運んでほしい」と頼まれた。
内容はただの食料袋の搬送。戦いになるような依頼ではない……はずだった。
川辺に着くと、すでに村の子どもたちが集まっていた。
木の棒で魚を追いかけたり、水を掛け合ったりと大はしゃぎだ。
「……あれ、魚、取れる?」
ルーラがぼそっと呟くと、ひとりの少年が「やってみる?」と棒を差し出した。
最初は躊躇していたが、すぐに水辺へ降り、真剣な顔で魚影を追いかける。
俺とミリアは荷物を下ろしながら、その様子を見守った。
数分後、ルーラが見事に小さな川魚をすくい上げ、子どもたちの歓声が上がる。
その顔は、昨日までの無表情とは違い、わずかに口元が緩んでいた。
――その時。
上流から激しい水音が響き、小さな丸太が流れてきた。
丸太は子どもたちの方へ向かって突進してくる。
「危ない!」
俺が駆け出すより早く、ルーラが水辺に飛び込み、棒で丸太の進路を逸らした。
水しぶきを浴び、濡れた服のまま岸に上がる。
「……大丈夫?」
心配そうに駆け寄る少年たちに、ルーラは小さく頷いた。
その瞬間、周囲が笑い声と拍手に包まれる。
宿に戻る道すがら、ミリアが俺に小声で言う。
「ねえ……あの子、やっぱり強いよ」
「ああ。だが、それ以上に……人の輪に入っていくのが、早い」
ルーラは前を歩きながら、川で取った魚を抱えていた。
その後ろ姿が、ほんの少しだけ柔らかく見えた。
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