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21話 「王都の影」
村での依頼を終え、三日かけて王都の城門に辿り着いた。
石造りの城壁と、門前の人混み――やっぱりこの活気は田舎にはない。
荷馬車の列に並びながら、俺は深呼吸した。
「やっぱり人多いな……」
「お祭り前だからね」ミリアが笑う。
「祭り?」とルーラが首を傾げた。
「収穫祭だよ。露店がいっぱい出て、美味しいものが山ほど並ぶんだ」
門をくぐると、香ばしい焼き菓子の匂いが風に乗ってきた。
通りでは旅芸人が芸を披露し、子どもたちが駆け回っている。
ルーラの目も、少しだけ輝きを帯びていた。
――だが、俺の視線は別のものに釘付けになった。
通りの端、黒い外套を着た男が、大型の檻を荷馬車に積み込んでいる。
檻の中には、顔を布で覆われた人影。
そして、荷馬車の横に掲げられた紋章――見覚えがあった。
(あの紋章……村外れで見た奴隷商人のものだ)
心臓が一瞬だけ強く脈打つ。
まさか、また王都で目にするとは。
今はまだ手出しできない。だが、間違いなく何かに繋がっている。
「どうしたの?」
ミリアが振り返る。
「……いや、何でもない。宿に行こう」
視線の端で、檻を積んだ馬車がゆっくりと裏通りへ消えていくのを見送った。
その光景が、妙に胸に引っかかったまま。