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ピピ ピピ‥‥‥
‥‥耳元の携帯のアラームが鳴り響くのを無造作に止 める。
‥今日も眠れんかったな‥‥
今日から合宿が始まる。祐希さんと別れてから一 ヶ月、 気持ちの整理はつかないまま今日を迎えた。重い腰をあげ、少しふらつきそうにな る体を留め、身支度を始める。
洗面所に映る自分の顔は、まぁ見事に悲壮感漂う
なんとも情けない顔をしていた。
しっかりせな‥鏡に映る自分に気合を入れ直 す。
誰にもばれないようにしなければ‥
祐希さんにも、チームの皆にも‥
「藍さん!お久しぶりです!ニコッ」
合宿所に着くなり、後ろから声を掛けられ、聞き
慣れた声に振り返ると甲斐がいた。
おおー、久しぶりと笑 顔で応えるといつもの満
面のス マイ ルで、俺を 嬉しそうに見つめてくる。
相変わ らず可愛い後輩 だ。
「おい!」(ドンッ)
「痛ッ‥‥って、小川さんじゃないですかー♫」
「入り口で立ち止まんな!お前ら、デカいし邪魔!!」
「またまたまたー♡そんな事言うて、俺に会えて嬉しいんやないですか?」
「①%もそんな気持ちないな!」
「ひどっ!!」
小川さんとのやり取りは大体いつもこんな感じ
。普段通りにしなければと思っていた俺にとっ
ては、こんな対応がむしろ有り難い。
そんなやり取りをしばらく続けて‥フッと
視線を感じて辿ると、甲斐が静かに俺を 見つめていた。どうした?と笑顔で話しかけると
「藍さん‥‥‥何かありました?」
「!‥えっ、何が?何もあらへんよ。いつも通りだと思うけど?」
急な事に少しドギマギしながら話す俺を、そうで
すか‥とだけ言い、その後は特に何も言っ てこなかった。
練習が始まる。当たり前だが、祐希さんも勿論 いる。最初はどんな顔をすればいいのかと戸惑っ ていたが、祐希さんはというと、本当に以前の接 し方と大差ないほど、普通だった。
話しかけないわけでもなく、適度な距離を保って
いるように感じた。
まるで、付き合っていた事が無かったことのよう
に思えて、鼻の奥がツンとする 。
急にポンっと右肩を叩かれてハッと振り向く。
「藍さん、休憩ですよ!」
「あっ、そうなんや。甲斐、サンキュー」
「お前、目開けて寝てんじゃね?」
「寝てんのは小川さんのほうでしょ?笑」
「何でだよ!!」
そう言いながらキックしてきた小川さんを、思わ
ずつい、避けてしまう。俺が避けた反動で躓いた
小川さんが俺の上に覆いかぶさってきた。
後少しで唇と唇が、触れるんじゃないかと思った
その時、小川さんの首元をグィっと大きく引っ張
って離してくれた。
甲斐だった。
「危ないですよ!」
「ほんと、あぶねー!お前避けるなよー」
「甲斐、助かった。あのままにしてたら、藍に喰われるとこだったわ笑」
「襲われたのはこっちなんすけどねー」
誰が襲うかよっ!と性懲りもなくまたキックをし
てくる小川さんをかわし、座り込んだとき、フッと視線を上げると‥
「‥‥‥」
少し遠く離れた位置にいる祐希さんがこっちを見ていて、視線が交わる。
思わず反射的に逸らしてしまう。普通でいな くてはと思っているのに‥情けないな‥。
たかが、目線があっただけなのに、鼓動がうるさ
くてかなわない。
その時。休憩の終了の合図が鳴る。
自分の気持ちを振り払うかのように俺は急いで立
ち上がり、駆け出そうとした‥‥
「‥‥あっ、」
急に視界が暗くなるのを感じた。足に力が入らな
い。ヤバっ‥と思う時には体育館の床が目の前ま
で迫ってきてる感じがした。天地がひっくり返
る。
「藍!!」
(ドサッ)
薄れゆく意識の中、誰かが俺を呼んだような気が
した。暖かい大きな手を感じたような‥。そ んな
気がした‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
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