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「えっ? あの……」


アルメリアが戸惑っていると、ルーカスは微笑む。


「私が怪我をしたとき、君は献身的に寄り添いその怪我を治してくれた。そんな女性を愛さない男性はいない。私は君に恋をした、君に恋い焦がれました。でも、それだけでは君に近づけはしなかったのですね。私やリカオンのように君に焦がれる人間は私たちだけではない。そばにいられるだけでも幸せなのかもしれません」


「ルーカス……私は」


「わかっています、こちらの勝手な気持ちですから、君とどうこうしたいといったことではありません。私は自分でこの気持ちにしっかり折り合いをつけますから」


そう言うと悲しげに微笑み、リカオンを見上げる。


「リカオン、君は強いな」


「お嬢様のことを想えば、当然のことです」


「そうか」


そう言うとルーカスはアルメリアに向かって言った。


「アルメリア、私の気持ちを君に押し付けるようなことを言って申し訳ない。君がこれ以上私を気づかう必要はないので、今言ったことは忘れてください。それに、今後もなにかあれば気軽に仰って下さい。わかることならばいくらでもお答えしますから」


そう言って微笑んだ。






執務室へ戻るとアルメリアはリカオンに訊いた。


「私、気づかないうちに、ルーカスに気を持たせるようなことをしてしまっていたのかしら」


「いえ、それは違います。お嬢様が当然と思ってとる行動が、我々にとっては当然ではないことが多々あります。それは我々がお嬢様という崇高な存在に追い付いていないからなのでしょう。ですから、我々がそんな存在に心惹かれてしまうのはしかたのないことなのです」


アルメリアは驚いて、そんな恥ずかしいことを平気な顔で言っているリカオンの顔をまじまじと見つめた。その後ろでペルシックが目をつぶり何度も頷いているのも視界に入った。

アルメリアはなんと答えてよいかわからず、呆然とリカオンの顔を見つめる。


リカオンは微笑んで言った。


「したがってフィルブライト公爵令息のお気持ちは彼の問題ですから、気にしない方が彼のためでもあります。割り切れないとは思いますが、言われた通り忘れてしまうのが最善でしょう」


「そ、そうなんですのね? そ、そうですわよね。なんだか色々割り切ることは難しいかも知れませんけれど、それがルーカスのためなら、そうですわよね」


そう答えるとなんとか自分を落ち着かせるように深呼吸し気持ちを切り替え、先ほどルーカスから教えてもらった羊の角や羊の鼻について考えることにした。


羊がなにを指しているのかわかれば、ある程度なにを指しているのかわかるかもしれない。だが、羊そのものがこの件に関わっているものたちだけの隠語だとすれば、当事者でなければこれらのことは理解できないだろうとアルメリアは思った。


もう少し調べるか、関係者にでも聞かないかぎりわからないかもしれない。


そう思い、とりあえずその件に関しては関係者を拘束してから聞き出した方がはやいかもしれないと結論し、この件に関してはのちほど調べることにした。


そう考えると、アルメリアはとにかく余計なことは考えないことにして執務へ戻った。

午後になり、アドニスからお誘いの連絡があったとリカオンから報告があった。

先日執務室へお茶に誘ったときに、後日ゆっくり話したいことがあるといっていたので、その件だろう。


だが、正式な発表がないとはいえ、アルメリアは王太子殿下の婚約者である。そんな令嬢が休日にどこかの貴族と二人で出掛けたとなればスキャンダルになりかねない。それはアドニスもわかっていることだろう。


なので、城内で会うことにしてリカオンに予定の調節とアドニスへ返事をお願いする。と、すぐにそれに対して了承したとの返事が届いた。


約束の日、アルメリアの執務室を訪れたアドニスは、アルメリアを中庭に誘った。


「貴女は最近根を詰めすぎだと思いましてね。息抜きのためにお誘いしました」


「そうですわね、たまにはいいかもしれませんわね」


そう答えて、アドニスに誘われるまま中庭へ向かうと中庭に出る手前で、アドニスは振り返りリカオンに言った。


「悪いが、二人きりにしてくれないか? 護衛ならその場からでも十分可能だろう。それに、私もいる」


「僕としては、貴男が一番信用ならないのですが……。お嬢様、どうされますか?」


アルメリアは一瞬躊躇したが、アドニスが二人きりになりたいと言ったのだから、もしかしたら大切な話があるのかもしれないと思った。


「大丈夫ですわ、リカオン。ありがとう」


「お嬢様がいいなら僕はかまいません」


それを聞くと、アドニスはアルメリアに微笑んだ。


「では行きましょう」


中庭に出るとアドニスはガゼボへアルメリアをエスコートするとアルメリアに問いかけた。


「アルメリア、ロベリア国にはこんな伝承があるのはご存知でしょうか」


「伝承ですの? どうかしら、聞いてみないとわかりませんわ」


「では、お話しましょう。ロベリア国に最悪が訪れる。その最悪は音もなく忍び寄り、国を瞬く間に蝕んでいく。だが、そこに美しき一人の乙女が現れロベリアを最悪から救うだろう。その後その娘は彼の地へ去る」


アルメリアは内心驚いていた、それはゲームでも出てきた伝承だったからだ。

恋愛対象と全員仲良くなると、ヒロインは誰からの求婚も受けずに旅に出るというエンディングが存在する。

そのときに一番仲のよい恋愛対象者がその伝承を口にして『その通りになった』と呟くのだ。


それに言われてみれば、昔ばあやに寝物語として話してもらった救国の乙女の話が、この伝承だったかもしれないと気がつく。


「聞いたことがありますわ。私の記憶にある物語にも出てきましたし、幼い頃に寝物語でも聞いた気がしますわ」


「そうですか……」


そう言うとアドニスは悲しげに微笑んで、話を続ける。


「私はね、この乙女が貴女のことを指しているのではないかと思っているのです」


「なぜそう思いますの? 私はその乙女ではありませんわ」


これははっきり言えた。なぜならこの乙女はヒロインであるダチュラを指したものであることを知っていたからだ。


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