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「じゃあ、恵ちゃん。俺たちもどこか行く? ホットな夏休みを……」
「私、家族とキャンプする予定があるんですけど」
恵はこんな時もブレずに塩対応だ。
「ならお邪魔しちゃおうかな? 先日、佳苗さんにお誘いも受けたし」
ニッコリ笑った涼さんは、スマホを出すとメッセージを打ち始めた。行動が速すぎる。
「ちょ……っ、ちょっ……!?」
恵が動揺している間、涼さんはメッセージを打ち終えて送信している。
「……中村さん、涼はこうと決めたら本当に行動が速いから、諦めたほうがいいよ。しかも人当たりがいいから、大体の人は受け入れちまうし」
尊さんが気の毒そうに言う。
「……おのれ太陽属性……」
恵は溜め息をつき、腕組みをしている。
すると涼さんのスマホに着信が入り、彼は「ちょっと電話してくるね」と個室を出て行った。
尊さんも立ちあがり「ちょっと行ってくる」と、フラリと個室をあとにする。
恵と二人きりになり、私はなんとなく気が抜けて微笑む。
「美味しいお肉だったね」
「マジ美味しかった。涼さんや篠宮さんと一緒にいると、カロリー心配だわ~」
「それはあるかも。運動しないと」
お腹をさすりながら言うと、恵がポンポンと腕を叩いてきた。
「何だかんだあったみたいだけど、大切にされてんじゃん。さっきは『これだから金持ち男は』って言ったけど、涼さんが言った通りあんなに立派な物、本気じゃないと贈らないと思うしね。私は知らないブランドだけど、涼さんがああいう反応をしたって事は結構な物なんじゃないの?」
そう言われ、私はコソコソッと言う。
「プレゼントの値段を調べるのって無粋でマナー違反だけど……、ちょっと確認してもいいかな?」
「私が許す」
恵の許しを得てネット検索をしたあと――、私たちは金額を見てムンクの『叫び』のような顔になっていた。
「ど……っ、どうしよう……っ。落とせない。つけられない……っ」
「落ち着け。まず鍵付き金庫だ」
「そうだね。しまっておけば落とさなくなる」
私たちは動揺のあまり、ジュエリーを身につける事を失念している。
「何やってんの。せっかくプレゼントしたんだから、つけてあげないと尊が可哀想でしょ」
そのタイミングで涼さんが戻ってきて、呆れたように笑う。
「……母はなんて言ってましたか?」
恵が尋ねると、涼さんはいい笑顔でサムズアップした。
「大興奮で受け入れてくれたよ。行き先はこっちも海で、茨城県大洗のビーチキャンプ場だって。水着だね!」
「……すっごい嬉しそうっすね」
「恵ちゃんにどんな水着を着てもらおうか、楽しみで楽しみで……」
「ドスケベ」
「恵ちゃんの大好きな、ドスケベ大魔王だよ」
恵が塩対応を通り越して、塩の塊をぶつけるような対応をしても、涼さんは飄々としている。
「まぁ、何を着せられてもラッシュガード着ますから、問題ないですけどね」
「それを脱がせるのが俺の仕事だよね」
まるで語尾に音符マークでもついていそうなルンルン具合で言われ、恵はしかめっつらだ。
その時に尊さんが戻り「帰るか」とバッグを手に取った。
彼は先に私の荷物を手にして渡してくれ、そういうこまやかな気遣いにキュンとくる。
「尊、さっき朱里ちゃんが恵ちゃんと、ショパールを鍵付き金庫にしまっておく相談してたよ」
「マジか。……朱里。つけてくれないと意味がないんだが」
「こっ、……怖くてつけられませんよ。落としたり壊したら、絶望して身投げするしか……」
「身投げはもうやめてくれ」
彼は溜め息混じりに言い、個室を出てから出入り口に向かっていく。
「確かに安くない買い物だけど、朱里にあげたんだから、しまっておくよりは着けてくれたほうが嬉しい。沢山つけた上でうっかりなくしてしまったなら、それは仕方ない。また別の物を贈るよ」
「……うう……。気持ちはありがたいんですが、せめて三万円以内に……」
「そこはホラ、男の見栄だから」
「また見栄だ~……」
ブスーッとしていたけれど、スタッフさんに送りだされる時は、三人で彼に「ごちそうさまでした」を言った。