テラーノベル
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モワッとした空気の中、近くの駐車場まで歩いて車に乗ると、尊さんはいつものようにジャズをかけて夜の街を運転する。
やがてお肉の感想大会を開いている間に、十分ほどで三田のマンションに着いた。
尊さんは律儀に駐車場に車を納めてから、「ちょっと待っててくれ」と言って降車した。
「あっ、私のお土産なんですから、私が取りに行きますよ」
私はそう言って尊さんを追いかけ、何重にもなっているセキュリティをくぐってエレベーターに乗り、最上階を目指す。
家に帰ってホッとする暇もなく、私は部屋に置いてある恵と涼さん用の紙袋を手にし、尊さんと共に慌てて駐車場に戻る。
「はい、これ。どうぞ。食べ物ばっかりだけど」
「ありがと」
恵は紙袋の中を覗き込み、「結構あるね……」と笑う。
「後日、食べたら感想教えて。地ビールとかも入ってるから」
「分かった。サンキュ」
それからさらに六本木までは、十分もかからない。
マンションの前で車から降りた二人は、私たちに手を振った。
「篠宮さん、ごちそうさまでした。いいお肉でした」
「尊、ごちそうさま。次は俺が奢る」
私たちは二人に手を振り返し、帰路に着いた。
「はー、エアコン正義ー!」
七月二十二日の気温は三十四度を超えていた。
外に出ていた時間は少なかったけれど、その僅かな徒歩時間でドッと汗を掻いた。
「お疲れさん。風呂入れよ。俺は寝室のほうのシャワーに入るから」
「ありがとうございます!」
まずは汗を流してからという事で、座ってお尻に根っこが生えてしまう前に、私は荷物を置いて服を脱ぐ。
そしてTシャツと短パン、下着を手に、洗面所に直行した。
なにげに、メインの洗面所、バスルームに一番近い部屋なので助かる。
至福のお肉の味を思い出しながら丁寧にクレンジングをし、念のため体重を量ったあと、すぐに記憶から消去して、髪をブラッシングしてからバスルームに入った。
尊さんにはお風呂に入れと言われたけれど、夏場の暑い時なのでサッとシャワーで済ませてしまう事にした。
シャワーから上がったあと、念入りにスキンケアをし、なんなら体にも化粧水、クリームを塗り、さらにヘアケアもする。
やっと終わって洗面所から出た頃には、尊さんはリビングでテレビを見ながらタブレット端末に目を落としていた。
仕事時のセットした髪がサラサラになり、ちょっと幼く見えるのが可愛い。
(こんな尊さんを綾子さんたちが見たら、どんな反応するかな……)
私はそんな事を考えながら、キッチンに行って冷凍庫をあさる。
夏になり、アイスの備蓄はバッチリだ。
なんなら、アイス専用の冷凍庫がある。
尊さんは色んな高級店のお高いアイスを仕入れてくれるけれど、私は普通の棒アイスも好きだ。
……と思いながら、町田さんが買ってきてくれた白くまアイスの限定を選ぶ。
ゴディバ監修のちょっと贅沢なやつだ。
尊さんの側に戻った私は、床に敷かれたラグの上に座り、鼻歌を歌いながらアイスを食べ始める。
「朱里」
「はい?」
尊さんはテーブルの上に置いた麦茶のポットからお代わりを注ぎ、チラッと私を見てから言った。
「……水着、あるのか?」
少し照れたような横顔を見ると、私まで恥ずかしくなってくる。
「一応持ってますけど……、マイクロビキニとか超ハイレグとか、難問を出さないでくださいね」
「言わねーよ。着てくれたら目の保養になるけど、外でやったら朱里が痴女になるだろうが」
「あはは! 確かに。なら尊さんもヒョウ柄のブーメランパンツを穿いてくれたら、おあいこになりません? 二人でヒョウ柄着ましょうか」
「飴ちゃん配らなきゃならんだろ」
「ひひひ」
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