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彼と出会ったのは寒い季節で、その年で初めての雪が降った日だった。
プロヒーローとして活躍している彼は黒い帽子に白い使い捨てのマスクをしていた。でも紅白で艶のある髪は隠せていない。
周囲の女子高生や男の子はそんな彼をみてコソコソ話すばかりだった。
私は彼の存在はニュースで知っている程度でサインして貰おうとも握手を求めようとも思わなかった。ゆっくりと降る雪を見つめながら積もるかな、と呑気に考えてマフラーに鼻を埋める。
「あの」
後ろからテレビで聞いたことのある声。
すこし振り向きたくなかったが振り向く、無視をできるほどの勇気は私に無くて。
「どうしましたか。」
そう問うとすぐに口を開く彼。
「…出身小学校、どこですか。」
突然の問いかけ、意味がわからなかった。
私の小学校?プロヒーローとしての彼は知っているが名前までは知らないし、 私の地元はここでは無い。成人して地元から東京に行ってみたものの土地は全て高くて、安定した仕事にも就けなかった。すぐに地元に帰るのも気恥しい気持ちだから田舎とも都会とも言えないここに移った、今は生活も余裕がある。
「なぜそんなこと、聞くんですか。」
少し言い方が冷たかったかもしれない。でもこう聞くしか無かった。
彼はバツが悪そうに少し眉を下げてから無表情に戻った。
「いや、会ったことある気がして。出身小学校…ここじゃないですよね。静岡の…」
確かにあっている。私は成人するまで静岡にいた。そういえば、プロヒーローの彼も静岡出身だったか。
「静岡の…小学校です。」
そう答えると彼はマスクと帽子を道のど真ん中にも関わらず外して私の前に近づいた。
「やっぱり…!俺、轟、焦凍だ。覚えてるか分かんねえけど、ずっと俺は覚えてた。ミョウジ、だよな。」
寒さでほんのり赤くなった耳と鼻、頬が端正な顔を引き立たせている。白い息が自然と吐かれて、轟さん は不器用ながらも嬉しそうにわたしの手を握った。
「…あ、わりい。名前合ってたか?」
「合ってます、ミョウジです。…ええと……轟焦凍さん…」
困惑する私を前に轟さんは微笑む。
「思い出さなくてもいいんだ、ただ…会えて嬉しい、それに懐かしい。声が聞けて良かった。」
少し悲しそうに笑顔を作る轟さん。鈴色と金春色の瞳を見つめると宝石のようで、見惚れてしまった。
「あ。連絡先、聞いていいか?…言っとくが…ナンパじゃねえ、小学校の卒アルみたら俺が居るはずだ。」
「あ、はいっ。」
スマホを取り出す彼に合わせて自然とスマホを出し、連絡アプリを開く私。…結局、サインを求めるとか、握手お願いするでもなく連絡先を貰ってしまった。
警戒していながらも轟さんというプロヒーローに関わることが出来て少し、いやだいぶ嬉しかったんだ。
轟さんは仕事で忙しい、という理由で連絡先を交換するとすぐに走って行った 。
忙しいはずなのに私に話しかけてくれたことに少し優越感を覚えた。
冷たい態度のまま別れてしまった、轟さんの悲しそうな笑顔が忘れられない。